二人と一人の島
@Mits
第1話
照りつける太陽の下を、青の上の白い一点である一艘の救命筏はその日も -正確にどの日かはわからない- 水たまりに落ちた枯葉のように漂っていた。僕は空を飛ぶ白いかもめを視界にとらえ、石川啄木のある有名な一句を思い浮かべた。
非常用保存水をほんの数ミリリットル飲み、乾パンを一つ口に入れて、相変わらず筏のちょうど対角線上、すなわち僕から一番遠く離れているところに体育座りしている晴美に目線を向けた。
「まだ僕のことは嫌ってるの?」
一か月前に言おうと思っていたことがなぜかその時僕の口からひとりでに出た。
「さあ。」
驚くべきことに晴美が返事をした。
「僕を無視するのはやめたの?」
そう言ったあと頭上に広がる空を見て、言わなければよかった、と思った。案の定、晴美はいままで通り今度は返事をしてくれなかった。晴美の体を見つめていると、彼女の矢を射るような目線を受けたので、筏の前方のほうへ向き直った。
するとはるか彼方の水平線の真ん中がいびつに盛り上がり、そこだけが緑色であるのが見えた。陸地であった。墜落から幾十日、二人がそれぞれひそかに切望してきたはずである陸地を目にしても、別段の歓喜や安堵というものは不思議なことに感じなかった。
「あ、」
僕は何十秒かが経ったのち、前を見据えたまま口を開いた。
「島だよ。」
晴美のほうを振り向くと、彼女の目もその緑をしっかりと捉えているようだった。
「行こうか。」
僕がそう言うと、晴美は無言で櫂を取り陸地に向け漕ぎ始めた。僕は彼女の目が久しぶりに少し明るくなるのに気付いた。僕も櫂を取り、力いっぱい漕いだ。
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