8:変わっても変わらなくても

「あのね…私も話さないといけないこと…あるから聞いて欲しい」


 ユリノを抱きしめたままそういうと、返事をする代わりのように背中に手を回されて力を込められる。

 ユリノから手を放した私は、少し緊張した面持ちのみんなの方へと向き直って姿勢を正す。

 緊張でパサパサになった口を開いて覚悟を決める。これでみんなが離れても…このまま隠すよりはマシって自分に言い聞かせる。


「その…みんなが、私のこと女の子って言ってくれて褒めてくれてうれしかったけど…その…私…生まれた時の性別は…今と逆で…なんていうか…病院に通ってて…高校を卒業したら手術もしようって思ってて…」


 言葉に詰まる。怖い。でも、ユリノはちゃんと勇気を出して伝えてくれたんだから言わなきゃって焦ると、気持ちばっかり滑って言葉はどんどん詰まってく。

 涙がまた出てきて、ハンカチで目を拭いながら前を向くとユリノの顔が目の前にあった。


「大丈夫。それでもボクはゆたかが好きだよ」


 ユリノに抱きしめられて子供みたいに泣いていると、私のおでこに軽くほっぺを押し付けながらよしよしと撫でられる。


「ごめんね。あの後、暴れてた子が叫んでたから聞いちゃったんだ」


「ああ。別にそれでもゆたかちゃんはゆたかちゃんだから、俺らは気にしないってことに決めたんだ」


暴露ばらされたことが本当でも嘘でもそれに乗るのはなんか気に入らないし…ね?」


 ユリノに続いてシュウさんたちがそういったのを聞いて悔しいのと安心したのとで私はまた泣いてしまう。

 秘密をバラされた悔しさと、言い出せなくて他の人からそんな事を聞いて困ったであろうみんなの気持ちと、それに、私が結果的に嘘をついていても、それでも好きで友達でいてくれることの嬉しさでぐちゃぐちゃでどんな顔をしていいかわからない。


「ごめんね…ありがとう…みんな、ありがと…」


 みんなにお礼を言わなきゃって顔をあげると、みんな揃って優しい顔をして私を見てるから、また涙が勝手に出てきて泣いてしまう。

 それでまたみんなに慰められたり笑われながら代わる代わるに頭を撫でられて、いっぱい泣いて、その後ユリノの冗談で笑ってまた泣いて、気がついたら海から太陽が顔を出してた。

 大嫌いだった夏も、苦手だった海に来る人も、仲良くなってみたら運良くみんないい人で、色々あったけどいい思い出ができたねなんて言いながら車から下ろしてもらって家に着く。

 叔父さんには窪田さんが前もって連絡してくれていたお蔭で心配をかけたり、怒られずに済んだ。


 それから叔母さんも無事にぎっくり腰もよくなって、私は海の家を手伝わなくてもよくなったんだけど、たった二週間かそこらでも日課みたいになってしまったことをやめると暇でしかたなくて結局私は夏休みが終わるまでほとんど毎日叔父さんと叔母さんの手伝いをしたり、休みの日もユリノたちと遊んだりしてあれだけ大嫌いだった海に毎日通った夏だった。


「ゆたかー!これあげる」


 明日でユリノが帰るってことで、みんなで集まってまたあの日みたいに集まって花火をしよってなって、シュウさんたちを待ってるときユリノが急に渡してきたのは淡い色合いのカラフルで小さな石が編み込まれたブレスレットだった。


「お揃いなんだよ!いいでしょ!

 スーパーボールっぽくない?きらきらのやつ!あれ好き」


 ユリノは、男の子だって教えてくれた後もいつも通り接してくれて、少し意識しちゃってたまにドキドキしてるのは私だけみたいでなんか悔しい。

 ユリノは自分の腕に付けた似たようなデザインのブレスレットを見せてニコニコと笑う。

 やっぱり、ユリノは可愛くて、たまにカッコよくて、男の子でも女の子でもきっと私はユリノのことをどんな形であっても好きなんだろうなってその笑顔を見て思う。


「ありがと。大切にする」


 ブレスレットを手首に結ぶとユリノは嬉しそうに笑って、私の手首に巻き付けられたそれをそっと指で撫でるように触れた。


「また、来年…だね」


「もう、ひと夏の思い出になんてするつもりはないから。

 来年も、再来年も、その次の年もゆたかに会いに来て、たくさん思い出を作って、好きになってもらうようにがんばるよ」


 寂しいって気持ちで胸がいっぱいになって泣きそうになる。この夏最後の思い出は笑顔で終わらせたいのになって我慢しようとするけどちょっとうるうるしちゃってると、ユリノは照れているのか寂しくて泣きそうなのかわからないけど、珍しく私から目をそらして地面の石を蹴りながらそんなことを言い出したので私は驚いて思わず足を止める。


「…何言ってるの」


「もー!本気なんだからね!背だってゆたかより大きくなるし…」


 冗談だと思ったのか、ユリノが私の顔を見ないで空を仰ぎながら、頬を膨らませて怒ったふりをする。

 普段は顔を見てくれるのに、こういうときに限って私の顔を見てくれないのは、もしかして強がりを言ってるのかなって気がして、私はついユリノの腕を掴んで大きな声を出してしまう。


「そうじゃなくて、もう私はユリノのこと大好きだよ!

 男の子としてとかは…確かにぶっちゃけよくわかんないけど、でも、こうやって触れ合うとドキドキするし、楽しそうに笑ってたら可愛いって思う」


 目をまんまるにして私の顔を見ながら制止したユリノに向かって、勢いが止まらなくて更に言葉を続けた。


「変わっても変わらなくても、私はユリノが大好きだし、会いに来てくれるの待ってるから」


「ありがと」


 ユリノは顔を真っ赤にして小さな声でそう言ったけど、ちょっと下を向いて目元をこすったと思ったらすぐ元の調子に戻って、私たちはお揃いのブレスレットをしたままみんなとめいいっぱい遊んで、「また来年、約束だからね」そう言って小指と小指を絡ませて約束をして、私はシュウさんの車に乗っていくユリノを見送った。

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