2:わ…インターネットでよく見るやつだ…
「あれ?おねーさんのそのかき氷かわいい!どこで売ってたの?」
「…」
「ねーねーおねーさんってば!」
「え?私?」
アニメみたいというか、なんかすごくきれいな声がして私は咄嗟に声のした方を振り向いた。
キョロキョロとあたりを見回すけど、声の主が見当たらない。
「あはは。ここ!下見て」
ハッとして視線を下に向けると、そこには背が私の胸くらいまでしかない女の子が笑って私を見てる。
肩につかないくらいの長さの金髪に近いちょっとゆるふわパーマがかけられた髪がすごく似合う色白の美人な女の子は、人懐っこい笑顔を見せながら、頭を傾ける。ちょんまげみたいに結んであげている女の子の前髪が揺れるのが可愛くて、つい顔が緩んでしまいそうになる。
「ごめんなさい。私、鈍臭くて」
「いーよいーよ。見失われるの慣れてるし。
そんなことより!ソレどこで売ってるか知りたいんだけど」
ライム色のラッシュガードと黒い短パンのような水着といったスポーティな格好のその子は、謝ってる私に笑ってそう答えながら、私が手に持っているスペシャル仕様のかき氷を指さした。
「ごめんなさい…これ、まかないで…売って無くて」
どうしよう。せっかく話しかけてくれてるのにどうはなしたらいいかわからない。
ニコニコすごい人懐っこいし、なんかすごいいい人っぽい。
ここで嘘つくのはダメだよね…って正直に言ったら、女の子は怒るでもなく、顎に人差し指を当てながら斜め右の方を見て考えるようなポーズをした。
「謝らなくていーよ。
うーんそうだなー」
女の子は、うーんと言っていたかと思うと、手を後ろに組んで小さくピョン!と飛んでこっちを見る。
「それ一口くれたら許したげる!」
「ど、どうぞ」
急にパッと花が咲いたみたいな笑顔を向けられて、それが眩しくて思わずどもりながら、私はマンゴーとみかんとかき氷をいい感じにスプーンに乗せて恐る恐る女の子に差し出す。
女の子はスプーンに勢いよく食いついて、それからほっぺを両手で押さえて「おいしー」なんて言ってまた可愛い笑顔を浮かべた。
一つ一つの動作が本当にかわいくて完璧で見とれながらもなんとなく気圧されていると、女の子はさっきみたいにすごく明るい笑顔でこっちに手を差し出してくる。
あ、握手?そういうウェイ系?みたいな人の文化?お礼的な?
よくわからないまま私も手を差し出して、女の子の割に少し骨っぽいキレイなスラッとした彼女の手をおずおずと握った。
「ユリノだよ!
おねーさんの名前は?ここでバイトしてる?っていうか
「わ…わ…インターネットでよく見るやつだ…」
「なにそれウケる。
ほら、スマホ!LINO交換しよ!」
目の前の美少女がネットで見るナンパな男の人がするような行動をしたから、動揺して思わず失礼なことを口に出してしまったにもかかわらず、ユリノちゃんはコロコロ笑いながら自分の防水カバーに入れてあるスマホをポケットから出して画面をこっちに見せた。
よくわからないけど嫌じゃないし…と流されてされるがままに連絡先を交換したところで、少し遠いところでユリノちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
ユリノちゃんを呼んだ背が高いちょっと厳つい日焼けした男の人は、頭を少し下げて挨拶らしきものをしてくれる。ユリノちゃんの彼氏かな?友達?
ユリノちゃんは男の人に手を上げて「すぐいくー!」と返事をして走り出す。
「連絡するね!しばらくこっちにいるからさ!あそぼーねー!」
どうしていいのかわからなくて後ろ姿を棒立ちで見送ってたら、ユリノちゃんはこっちを振り向いて、両手をメガホンみたいにして大声でそう言った。
「わ…わかったー!」
滅多に出さない大声で返事をしたから胸がドキドキする。
私の声が聞こえたのか笑顔で大きく手を振ったユリノちゃんは、男の人と砂浜にいる人混みの中に消えていった。
まるで台風みたいに唐突に現れて去っていったユリノちゃんの衝撃の余韻を引きずりながら、岩場に腰を下ろして半分くらい溶けたかき氷を口に運ぶ。
冷たくて甘いシロップとフルーツの甘酸っぱさが口の中で溶けて疲れも夏の暑さが少し和らいだ気がする。
――ピロン
通知音がなる。
お尻のポケットにしまったばかりのスマホを確認すると、画面に見慣れないアイコンがヒョコッと顔を出してた。
前髪を縛ってないけど一瞬でわかる自撮りアイコン…クラスの子もしてるけどやっぱ自撮りアイコンってすごいなぁ…と思いながらユリノちゃんのアイコンをタップする。
普段絵文字を使わない私からするとカラフル過ぎて眩しいメッセージがピョコンっと音を出しながらポップしてびっくりしてスマホを落としそうになる。
『ゆたかちゃん😆💖
さっきは🍧かき氷🍧🌴ありがとー✌️✌️✌️
明日もバイトしてる?遊びに行くね☀️✨✨
おしごとがんばって💪🔥🔥🔥』
ぶ…文化がちがう…でもすごい応援してくれてる感だけはすごい伝わってくる。
よーし…もう少しだけ叔父さんの手伝いがんばるぞー。
「ありがとう」という文字と共に慣れないながら太陽の絵文字を何個か付けて返信してから私は午後の手伝いのために海の家に戻った。
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