3:あの…友達も学校にいないし…

「ゆたかー!今日も来たよー!

 叔父さんもーお世話になりまーす」


 あれからほぼ毎日、ユリノは叔父さんの海の家に友達と遊びに来てくれていた。

 今日も、空の色みたいなラッシュガードを身にまとったユリノが元気にカウンターに来て挨拶をしてくれる。


「いやあ、いつもお友達と来てくれて助かってるよー!

 豊にまさかこんなに友達が出来るなんてなぁ」


 ユリノの後ろで、叔父さんに頭を下げて挨拶をするユリノの友達に叔父さんも笑顔で挨拶を返すのが見慣れた光景になってた。

 叔父さんに友達が出来て喜ばれるのがちょっと恥ずかしてくて私は逃げるようにバックヤードに材料を取りに行くふりをしてその場から逃げ出す。


 ユリノの友達は、見た目はちょっと怖い人もいるけど、話してみるとみんないい人で人見知りの私もすぐに仲良くなれた。

 背が高い人が多くて、私の頭が一つ飛び抜けて大きいなんてこともなくて、身長が高いことをからかわれることもなくてすごく居心地が良い。


 バックヤードで作業をしてたら叔父さんが気を利かせてくれて、「たまには午前中で手伝いはいいから遊びに行っておいで」と言ってくれたので、私はお言葉に甘えて半休を取ることになった。

 急な半休でルンルンになった私はお小遣いで買った唐揚げやジュースを持っていってユリノたちの輪の中に「おまたせー」なんて言いながら加わる。

 おつかれーってハイタッチとかして友達と合流して海で遊ぶなんて去年からしたら考えられなくて、自分でも自分に驚く。


「ゆたかちゃんはさー、彼氏とかいないの?」


「え?そ、そういうのあんまり…あの…友達も学校にいないし…」


 ユリノと最初に遭ったときに彼女を呼びに来た男の人は大学生でシュウさんっていうらしい。

 シュウさんから唐突にされた質問に、食べていたイカ焼きを喉につまらせそうになりながら私は顔を真赤にして答えた。


「えー?そんな可愛くてスタイルいいのに?見る目ないな~高校生」


 シュウさんが目を丸くして驚くことに私も目を丸くしてしまうくらいどうしていいのかわからないけど、男の人に褒められるのにも慣れて無くて自分の顔がどんどん熱くなるのがわかる。

お水でも飲んで落ち着かないと…黙ってたら変に思われちゃう。


「あー!セクハラだー」


「なんだよユリノも知りたがってたろ?

 あ、ゆたかちゃん嫌だったらごめんね。ちゃんと嫌なら嫌って言っていいからさ」


 手探りで飲むものはないかと辺りを探していると、どこからともなくやってきたユリノに抱きつかれて二度驚く。

 ユリノに叱られたシュウさんは笑いながらも私にそう言ってくれると、駆けていったユリノを追いかけて走っていた。

 ちょっと困ってたり私がテンパったときには必ずユリノがきて助けてくれる。シュウさんに褒められたことは嫌じゃないけど、人と話すことがまだ苦手でよく頭がいっぱいいっぱいになっちゃうから、ユリノのさりげない気遣いが本当に助かってる。



「おいドンがめ早く来いよー」


 走っていった二人を見ていたら、不意に聞き覚えのある声とあだ名にビックリして、声のした方に目が行く。

 髪色が明るい子もいるしお化粧もしてるけど顔を見て前の学校の子だって気が付く。

 転んでる女の子と、それを見て笑っているかつての同級生を見ないふりをしようとしたけど、ドンがめって呼ばれている女の子が顔を真っ赤にして地面に這いつくばってるのが目に入って、その子とは特に仲良くもなかったけど、なんとなく放っておけなくて、気がついたらドンがめと呼ばれた女の子の方へ歩きだしていた。


「大丈夫?怪我してない?」


 わざと大きな声を出しながら転んでいる女の子方へ近づくと、女の子たちが露骨に舌打ちをするのが耳に入る。


「だれあいつ?」

「はー。しらけるー」

「ドンがめー早く来いよー」


 手を差し伸べた女の子が顔を上げてやっと、その子が同じクラスだった亀入さんって名字だったことを思い出す。


「あ、あの…その…大丈夫だから」


「ほんとに?」


「は?あたしたちがいじめてるみたいじゃない?」

「どっかいけよデカ女」


 デカ女…と言われてちょっと傷つくけど、私が誰かわかってないみたいで安心した。

 昔のことをバラされるよりはデカ女って言われる方がマシだもんね。

 退く様子がない私にイライラしたのか、徐々に近付いてくる女の子たちから亀入さんをかばうように立って、負けないぞーって女の子たちを睨みかえそうとしたら、腰元に軽い体当たりみたいにドンってされて、カッカとしていた頭が急にスッて落ち着いた。


「ねーねー、どうしたのー?かずみちゃんがかき氷買ってきたってー」


 甘えたような声を出すユリノがきて一気に緊張感が解けた私は「たべるー」って言っちゃうし、なんかそれに更にムカついたのか女の子たちは最初ユリノにも何か言おうとしたみたいだったけど、後ろから来たシュウさんたち数名の厳つい男性陣が見えたのか、何もいわないまま亀入さんを置いてそそくさと人混みの中に消えていった。


「なになに揉め事ー?」


「っていうか、誰この子?」


 シュウさんと窪田さんがビールを片手に呑気に話しているのを見て思わず笑ってしまう。

 揉め事は揉め事なんだけど、なんて言おう。亀入さんも気付いてないみたいだし、気付かれてないならそのままがいいなーなんて迷ってたら、私の腕にニコニコしながらひっついているユリノが「転んでた子を助けたらなんか連れの子がどっかいっちゃったんだってさー」なんてざっくり説明してくれた。


「あー。ま、一人じゃなんだし嫌じゃなければ俺らと時間潰す?」


「あ、その…えっとはい」


 亀入さんはそのままなんとなく私達の輪の中の隅の方でジュースを飲んで、たまに私とユリノが話しかけると、曖昧に笑いながら「はい」とか「うん」って応えたりしていた。


「んじゃ、また明日ー」


 口々に別れの言葉を言いながら車に乗り込んでいくユリノちゃんたちを、徒歩で帰る窪田さんたちと見送ってから、海の家の閉店作業を手伝うために私は海の家に小走りで戻る。


「そういえば、なんだっけあの隅にいた子いなかったな」

「帰ったんじゃね?」


 背中に窪田さんたちの話し声が聞こえて、そういえば亀入さんがいつの間にかいなくなってたことに気が付く。

 まぁ、急に知らない人の中に流れで飛び込ませちゃったし嫌だったから黙って帰っちゃったのかな…。

 連絡先交換したけど、まーもう連絡来ないよなー。


 一度足を止めて亀入さんに連絡しようとしたけどやっぱりやめて、ユリノに「今日は駆けつけてくれてたすかったー😂✌️✌️」とメッセージを送った私は、お店の後片付けを手伝うために海の家に戻った。

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