9:今年も、こうやって
「ねー、おねーさん、それ美味しそうだね。そこの屋台で売ってる?」
「あ、はい」
今日は夏祭り。
去年までは家で留守番をしていた私だけど、今年は叔父さんたちの手伝いでかき氷屋さんの店番をして、お祭りを楽しんできたらしい叔母さんと店番を交換して屋台からちょっと離れた場所でパイプ椅子に座って青いシロップをかけたかき氷を食べようとしていたら、急に男の人に声をかけられた。
セミロングくらいに伸ばしたゆるくウェーブがかった髪…チャラそう…と思いながら声をかけてくれた男の人を反射的に睨んだけど、相変わらずへらへらとなんとなく犬っぽい人懐っこそうな笑顔でいる男の人に私は首を傾げてしまう。
もしかして知り合い?誰だかいまいちわからない私は同じくらいの身長の男の人のを見ていると、手元に目が行く。
「…あ。ぶれすれっと」
ビックリして口を抑えながらそう言うと、男の人はものすごく嬉しそうな顔をして腕につけたブレスレットを見せて、同じブレスレットをつけている私の横に自分の腕を並べてみせた。
「ユリノ!」
「ゆたかもつけててくれたんだね。うれしー」
少し低くなった声だけど、それは紛れもなくユリノの話し方で、私は思わず一年ぶりの再開に喜んで彼に抱きつく。
手に持っていたかき氷が背中にあたったのか「待って!超冷たい!」って言って笑いながらユリノは私から離れて、また向き合って顔を見合わせて笑った。
見た目はすごく変わった気がしたけど、笑った顔もユリノそのもので安心してしまう。
「ちゃんと今年も会いに来たよ。
背も大きくなったし、ちょっとはときめいた?」
ちょっと冗談めかして言ってるけど、ちゃんと私の顔を見ないでそういうときは大体ちょっと不安なときだって、去年の今頃の私と違って今の私はもう知ってる。
だから、かき氷をテーブルに置いて、私はユリノのほっぺを両手で抑えてこっちを向かせると、少し背伸びしておでことおでこをくっつける。
「去年も、今年も、こうやってユリノと触れ合うとドキドキするし、楽しそうに笑ってたら可愛いって思うよ」
ユリノは、去年みたいに目をまんまるにしたあと、顔を耳まで真っ赤にしながらゆっくりを頷いた。
私もなんだか恥ずかしくなって慌てて顔を離して、火照った顔を冷ましたくてテーブルに置いたかき氷を慌てて持ってほっぺに当てようとすると、横から手を伸ばしてきたユリノにかき氷を奪われる。
「あーもう」
慌ててかき氷を取り戻そうとして前に踏み出したら、そのままかき氷を持ったままのユリノがぎゅって抱きしめてきて、あれ?って私は小さな声を上げて止まる。
顔をあげると、すぐ近くに前より少し男の子っぽくなったけど相変わらず綺麗なユリノの顔があって吐息が前髪にかかる。
「ホントだ。ゆたかもドキドキしてる」
嬉しそうな声で囁くようにそう言ったユリノは、私を抱きしめる腕をさらに締め付けた。ぎゅっとなってちょっと苦しいけど嫌じゃなくて、私も彼の背中に手を回す。
自然と顔と顔が近寄って軽く唇と唇が触れて、二人でふふって笑いあう。
「ボクたち
「なれた…ね」
嬉しそうに笑うユリノともう一度軽く唇だけが触れるようなキスをして私達は手をつないだまま歩き出した。今年もたくさん思い出を作るために。
Special Bouncy Ball 小紫-こむらさきー @violetsnake206
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