5:人のせいばっかりにしちゃうのは勿体無いよ
「なんかごめんね…」
「ううん…ゆたかちゃんが謝ることじゃないよ」
ここ数日、ユリノ経由で出来た友人知人にこんな感じで謝られることが急に増えた。
「友達の知り合いだから一応遠慮してたけどもう無理」ってのが大体の理由で、その原因は亀入さんだった。
『私以外に話す人作ってみれば?みんないい人だし大丈夫だよ』
色々疲れていたのもあって何気なくそんな感じでメッセージを送ったことがきっかけだと思う。
急に亀入さんはいろいろな人と連絡先を交換したらしいって話はなんとなく聞いてて、私のところにも深夜のどうでもいい話が減ったしよかったーなんて呑気にしてたら、立て続けに何人かから謝られて頭痛がしそうなくらい気が滅入る。
謝ってくれた人の話を総合すると、亀入さんは私にしていたみたく、どうでもいい話を一方的にたくさん送っていたらしい。
あと、急に輪の中に入ったかと思うと話に急に割り込んできて、その話で盛り上がらないと不機嫌そうに大きな溜息を吐いたり、小さい声で文句を言うらしくて…。たった二、三日で自分の知り合いがしているろくでもない行動の報告が、立て続けに数人からどんどこ入ってきて何度目かわからない溜息を吐いてしまった。
流れでこうなっちゃったとはいえ、私に責任があるんだと思う。
今日もいるだろうし、ちょっと迷惑になってるよって伝えなきゃ…。
重い気分でエプロンを外して私服に袖を通す。
真夏の海で長袖のブラウスは薄手の生地とは言えちょっと暑いけど、体のラインを出すよりはマシだから仕方ない。
ゆっくりを時間をかけてブラウスのボタンを留め終わると、心の中で何度も自分を励ましながらユリノたちがいるいつもの場所に向かった。
「うーん…。ごめん、あたしホラーとかは詳しくなくて」
「えー?でも死霊絶叫死とかゾンビピッグマンとか本当におもしろいよ!見てよ!ほら、動画もあるし!ミッチーも気にいるよ」
「いや…だから…その、ホラー苦手だから」
外に出るなり目に入ってしまった問題行動。
私もそんな仲いいわけでもないけど、そんな私から見てもミチルさんは、すごい気を使ってやんわり拒否してるのがわかる。
あまりの光景を目の当たりにしたからか、二人の前で棒立ちしてる私に気が付いたミチルさんは、こっちへ小走りで向かってくると「ごめん、トイレ」と言って目くばせをして人混みの中にまぎれていった。
こっちもごめん…って思いを込めてミチルさんを見送った私は、明らかに不服そうな顔をしている亀入さんの前へとゆっくりと歩いていく。
「あ!豊ちゃん!ね、さっきの子最悪!せっかく私が色々話して誘ったのに全部無理っていうんだもん!
っていうか、みんなひどいんだよ。すぐ連絡無視したり、トイレに行ったあと私を一人にするの」
私が座る前に既に話しだした亀入さんはすごいスピードで捲し立ててくる。
こんな感じになったのも、私がちゃんとみんなに紹介しなかったからだし、亀入さんもあんまり人付き合いとかしたことないから距離感とか掴むの苦手だったりするんだろうなって同情みたいな気持ちが湧いてくる。
私も人付き合いは得意な方じゃないから、距離感を間違えて相手が引いてしまうことに気が付かないことあるし…。
「亀入さんさ、相手が困ってたり、嫌がってたりするのに押し付けちゃう時あるじゃん?
そういうの意識してみたらもっと仲良く出来る人増えると思うよ。人のせいばっかりにしちゃうのは勿体無いよ」
亀入さんも、私に対してユリノがしてくれたみたいに、フォローときっかけがあれば変われると思うから…と、まだ話し続けてる亀入さんの話を遮って思ってることを、なるべく彼女が傷つかないようにと言葉を選びながら話す。
「なんでそんなこというの?私はやっぱり邪魔でいちゃいけなくて人に話しかけるのも迷惑ってこと?」
声のトーンが変わった…と驚いていると、亀入さんは目を見開きながら私の手を爪が食い込むぐらいの強さで掴んできた。
もう逃げてしまいたいくらい怖いけど、ちゃんと言えばきっと伝わるはずだし、距離感なら少しずつ知っていけばいいんだよって言いたくて、私は懸命に話を続ける。
「邪魔とか迷惑じゃないけど、さっきもミチルさんも困ってたみたいだし…」
「わかったスマホ壊すよそうすれば誰も困らせないし、スマホを壊して家に帰ったらちゃんと死ぬ。それでいいんだよね?一生懸命私なりにがんばってたのに困ってるって言われて陰口を言われてたなんて辛いし生きていたくないもん」
話が通じない。
据わった目をした亀入さんは、私の手を乱暴に手放すと急にスマホを砂浜に叩きつけて勢い良く踏みつけた。
スマホを踏み終わったと思ったら次は自分の腕や足を自分の拳で殴りつけ始める。
「え?ちょっと待って!?なに?やめよ?」
急に目の前で始められた行動に驚いた私は、咄嗟に亀入さんの腕を押さえて止めようとするけど、そうしたらこっちを向いた亀入さんは私の肩を両手の爪を食い込ませるような勢いで掴んできた。
亀入さんは女の子だし、力負けはしないと思うけどとにかく怖い。
「なんでやめたほうがいいんですか?迷惑をかけたのに?迷惑をかけた人が痛い目に遭ってたら嬉しくないんですか?ごめんなさいめいわくをかけてごめんなさい死ねばいいんです私なんて」
「だから、自分を殴ったりとか死ねばいいなんて思ってないよ!話聞いて!」
亀入さんと私の言い争う声が聞こえたのか揉み合っているのを見たからか、少し離れた所にいたシュウさんたちが慌てて走ってくるのが視界の隅に見えて少しホッとする。
「なにしてるんだよ…ほら、マジで落ち着けよ…」
数人の男性の手を借りて、なんとか私から引き離された亀入さんは肩で息を荒くしてうつむいている。
「なになに?どういうこと?」
「わかりました。ごめんなさい謝ればいいんですよね。私がデブで不細工で図々しいからみんなで豊さんの言うことだけ聞いて攻撃してくるんですよね。わかりました。私が悪いです。迷惑なことをしてしまう私なんて死ねばいいんです」
「だ、だからそんなこと言ってないよ…お願い話を聞いて」
一度落ち着いたように見えた亀入さんは、シュウさんが私に事情を聞いた途端また怒り出して一方的に捲し立て始めた。
「いいですよね秋谷さんは。新しい友達が出来て本当の自分を隠して受け入れられて見た目も可愛いしみんなもこうして味方してくれるし。デブでブスな私は積極的に行くしかないのになんでそれをやめろなんていうの?誰かを困らせるくらいなら私は死ぬしかないのになんで困ってるってわざわざ伝えるってことは死ねばいいってことにしか聞こえないです。秋谷さんだって昔」
急に名字で呼ばれたことが一瞬気になったけど、両腕をものすごい力で掴まれる痛みでどうでもよくなる。
怖いし痛いし亀入さんがもう何を言ってるかわからない。
「ゆたか!」
大きな声と共にパッと目の前に割り込んできたユリノは、私の腕を掴んでる亀入さんの手を引きはがそうとしはじめる。
異様すぎる迫力に呑まれていたのか呆然としてたシュウさんたちも、私たちを引き剥がそうと動き出した瞬間、亀入さんから雄叫びみたいな声が聞こえた。
バッとユタカに抱きかかえられて無事に亀入さんとは離れたけど、その途端息がうまく出来なくなる。目の前がぐるぐる回って周りの音が遠くなる。思わずその場にしゃがみ込むと同時に一気に体中の力が抜ける感じがした。
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