7:言わなきゃいけないこと
「はー。毎年、夏楽しいけど、今年は特に楽しかった!」
線香花火をしている私の隣りに座ったユリノは、空を見上げて笑う。
「私…夏は毎年憂鬱だったけど、ユリノのお蔭ですごい楽しかったよ。ありがと」
「ほんとに!?やった」
すごく嬉しそうな顔をするユリノがこっちをみたタイミングで線香花火が落ちる。
新しい線香花火を取ろうと立ち上がろうとしたけど、ユリノに手を握られて、私はそのまま座り直す。
「ね、これ見覚えある?」
彼女がポケットから取り出したのは黒ずんだピンクのスーパーボールだった。
脈絡なく目の前に出されたものに見覚えがあるものの、いきなり何を言い出したのか、何を言いたいのかわからなくて首を傾げる。
「部屋で言おうと思ってたんだけど、言うタイミング逃しちゃって…」
「あ!見たことあると思ってたけど、やっぱり、私の部屋にあったやつだよね?」
ちょっと間を置いた後、俯いたユリノが珍しく真面目な顔をしながら私のことを見てくるのでちょっとドキドキする。
「ボクが小さいときに渡したコレ、捨てないでいてくれたんだって…ゆたかの机に置いてあるのを見つけて嬉しかったんだ。すごく」
いつもの天真爛漫って感じの笑顔じゃなくて、泣きそうな顔で笑うユリノにびっくりしたのと、あの時の小さな男の子が自分だって言い出したってことにも驚いて頭の中が混乱する。
「男の子だと思ってたけど、女の子だったんだ!すごい…っていうか私も雰囲気かなり変わったのによくわかったね」
今のユリノくらい伸ばした髪の毛を思い切って結んでいた自分を思い出して、懐かしいなーって思いながら笑いかけたけど、ユリノはなんだか少し眉間にシワを寄せて難しいことをしてる。
これは私がわけわからないことを言ったときによくする顔だって思って「あれ?」っていうと、ユリノの顔が目の前に近づいてきて思わず息を止めた。
「一目惚れした女の子のことだもん。忘れないよ」
え?って口に出して言う前に、私の頬にユリノの唇が触れる。
からかうように笑って元の距離に戻るユリノに私は口を開けてぽかんとするしか出来ない。
「ボクも、来年また会う頃にはかっこよくなってゆたかに異性として意識してもらえるようにがんばるからさ」
「え…ええ!?え?ユリノってえ?でも名前…」
自分の認識と言われたことが衝突する。え?え?と頭の中で自分の声がこだまする。
「
大きな声を聞いてぞろぞろと他の人達が集まってくる中、学ランを着てキリッとした顔をしているユリノの学生証を見て、私はめちゃくちゃ驚いてた。
周りの人の声はよく耳に入ってこないけど、とにかく、ユリノが男の子なのは冗談ではないってことだけわかる。
「髪の毛…そっか…地毛なんだソレ…っていうか…え?中学生?え?」
髪の毛を染めてるし、シュウさんのこと呼び捨てにしてるし、てっきり同世代とか大学生だと思っていたけどそっか。声変わりしてないもんねなんて驚いては納得してを繰り返して脳みそがパンクしそうになる。
「可愛い物好きだし、背もこんなんだし…男だって言って引かれるのが嫌でなんとなく言い出しにくくて…。ごめんね」
さっきまで私の顔を覗き込んでいたユリノは、そう言いながら横を向いて気まずそうに頭をかいた。
混乱はしていたけど、なんとなく心細そうな顔をしているユリノの手を私は両手で握った。
「ううん、大丈夫」
女の子として、私のことを好きになってくれる男の子がいて、その子はとってもいい子だった。すごい最高なことだ。
未だに男の子って言われてもピンと来てないけど、ユリノに好きな子が出来て私のことを好きじゃなくなってもずっと友達として仲良くなれる気がする。
でも…でも…。
頭の中がぐるぐるする。私もユリノに隠してることがある。
今言わないとフェアじゃないって頭でもうひとりの自分が囁く。
でも…この人数の前で話す?また中学の時みたいにならない?親とすら揉めたのに?また目の前がぐるぐるしてきた。
「ゆたか?どうかした?どっか痛い?」
「ちがうの…。私も…言わなきゃいけないことがあるなって…」
涙が勝手に出てきて、ユリノに頭を撫でられる。
ハンカチで涙を拭いて、自分のことを見てるみんなを見渡して、隣で心配そうな顔をしてるユリノの顔を見た。
都合がいい自分だけを見て欲しいし、嫌われるくらいなら本当のことを言いたくないって気持ちは多分、他の誰よりも私がわかってる。
私は、ユリノの腕をひきよせると、そのまま彼のことを抱きしめた。
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