第13話 優しさと温もり
ジュエンクラーラから帰宅した三人は、夕食と水浴びを終え、シズ・ミラ・トゥカの順でベットに仲良く川の字に並んでいた。
「ねぇミラちゃん。 寝たらまた睡眠学習のスキルが発動するんだよね?」
「多分そう。 もしかしてシズお姉ちゃん怖いの?」
「若干ね……ははは」
シズは先日の神獣と化したトゥカの襲われた一見以来、寝ることに対して少し躊躇するようになっていた。ベットの中で細かに震えるシズに、ミラは手を握ってあげる。
「私がいるから大丈夫だよ!」
「ありがとう……。 これで安心して眠れそうだよ」
シズは照れながらもミラの厚意に甘える。それをベットの端から見ていたトゥカがやきもちを妬く。
「はあ~、熱い熱い。 見てるこっちが恥ずかしいよ」
「えへへ。 トゥカお姉ちゃんもどうぞ~」
ミラはトゥカの手も握ってあげる。これによって、右手はシズに、左手はトゥカを握る形になった。
「ええ~! 私はいいのに!」
「遠慮しなくていいんですよ。 私もお母様やお父様によくしてもらってますから」
「珍しい。 トゥカが照れてる」
「うるさい! 見るなっ!」
「あれれ~、図星? 人種だとこの真っ暗な中じゃ見えないんだよ」
「もう寝る! お休みなさい」
不思議と三人は暖かな安心感に包まれた。それは家族という名の安心感なのか分からなかったが、とても心地よいものだった。
三人は心地の良いまま熟睡する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『―――……』
ドゴォンッ!!
家中に響き渡る轟音にシズは目を覚ます。先日、寝る寸前に襲われた感覚が残っていたので、ここが夢の中。すなわち睡眠学習が生み出した世界だと気付く。
家は半壊しており、崩壊した所はベットと真反対の方で、燃え盛っていた。
「魔法……?」
「っぽいですね。 気を付けてください
「これがシズのスキルなのね~」
「えっ?」
シズから見て左を見ると、現実世界では一緒に眠っていたミラとトゥカが、シズと共に起き上がっていた。
あまりの出来事に思考が停止する。
「もう一発来ます」
「任せて!!」
ミラが注意をすると、トゥカがベットを飛び越しシズの前に出る。
「え、ええぇ? 二人なんで? んんっ?!!」
「どうやら私たちはシズお姉ちゃんのスキルに巻き込まれ―――」
ボウッ
火の玉がシズたちの方へ向かって飛んでくる。トゥカは右手に力を込め始める。
「―――“光剣”!!」
トゥカの右手に眩いほどの光でできた細い剣が出現すると、火の玉を一刀両断する。二つに切り裂かれた火の玉は、形を崩したことにより地面にぶつかる前に空中で自然消滅する。
「何やってるのシズ! 早く構えて!」
「ご、ごめん」
シズもトゥカと同じく右手に力を込め、昨日ぶっつけ本番で生成することができた剣を作り出す。
「 ―――来い。 我が
「ヒュ~。 かっこいいじゃん」
「トゥカも似たようなことやってたじゃん!」
「まあ、イメージが大事だからね~」
「お姉ちゃんたち!
燃え盛る炎の中から現れたのは、どこかで見覚えのある少女だった。その少女は、黒い猫耳に杖を片手に持った姿をしていた。
「エマ……」
「誰?」
「私が今日戦った相手」
「なにそれ、報復にでも来たの?」
シズは首を横に振る。そして、薄々感じていたことをトゥカに話す。
「多分私が願ったから……かな。 もう一度戦って決着をつけたいって」
「なるほど。 この世界はシズの願望器ってことか」
「ところでミラちゃんは戦わないの?」
後ろを振り返り、ミラの方を見ると家の隅に隠れ、観察眼でこちらを見つめている姿があった。
「ごめんね。 私、監督役だから手出しは極力避けるように言われてるの」
「ええぇー! ミラちゃんがいたら百人力なのに!」
「シズッ! 来るよ」
いつの間にか杖がこちらに向けられており、火の玉が先ほどより小さいがいくつも高速で飛んでくる。それは玉というよりは、弾になっていた。
「なにこれ! こんなの知らないよ~」
必死に避けるシズだったが、左脚の太もも部分に火の弾が直撃する。火の弾は皮膚を焼き切り骨にまで達していた。
「アガァァァアアアッ」
「シズゥー!!」
いくらシズがLv.08だとはいえ、人種は防御力の面で劣っているため、攻撃が直でダメージに繋がってしまうこともある。
シズはその場に倒れ込んでしまい、焼けた腿を抑えながら
「シ、シズ……。 ア"ア"ァァァァア"ア"!!」
初めて見る親友の苦しむ姿に、トゥカは頭を抱えひどく錯乱する。
「トゥ……カ……。 お……ちついて……」
シズはトゥカの頬に手を伸ばし、落ち着けようとする。だが、その手は真っ赤に染まっておりトゥカをさらに錯乱させる羽目になった。
正気を保っていられなくなったトゥカに、徐々に紅色の模様が浮かび上がる。
「ア"ア"ア"ア"ァァァァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」
「ダ……メッ!」
完璧に模様が浮かび上がり、紅い光を放つ。すると、家の隅にいたミラがようやく動きを見せる。
「これが暴走した獣神か。 見てられないな」
『―――ファイア』
「くどいぞ!」
先ほどと同じ高速で飛んでくる火の弾をミラは、腕を一振りさせることで一瞬にして消し去ってしまう。
『!!?』
エマは後ろに一歩引きさがる。そして、距離を取る為に大幅に跳び、後退する。
「トゥカお姉ちゃん、ごめんね」
ドッ!
ミラはその隙に、暴走するトゥカの元へ瞬時に移動し、鈍い音を立てながら首を刎ねる。その残酷な姿を見たシズは痛みを忘れるぐらいの衝撃を受ける。
「これ以上苦しませたくないから……ごめん」
ミラがやっていることを理解したシズは、その優しさに温もりを感じた。なぜなら、今のミラは涙を流しており、その気持ちは唯一シズが身に染みて実感したことだからだ。
シズは、そんなミラが右手を垂直に上げるのを見ると、目をゆっくりと閉じる。
「ありがとう。 ミ―――」
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