第10話 ワイアット・マークラス

シズとミラはトゥカと別れ、冒険者となる為にジュエンクラーラのギルドの前へとやってきた。

ギルドの建物は、集いの場でもあるので他の建物に比べ大きさが格別に違う。ここがギルドと知らなかったら、どこかの貴族の家かと間違えるほどである。

シズは自分が想像していた小汚い建物と違うことを知り、顔を強張らせる。


「ギルドってこんなに立派な施設持ってるの……」


シズの右手を握っていたミラが、眉をしかめシズの顔をのぞき込む。


「当たり前じゃん。 国からの指定の施設だし、国の経済の中核でもあるからね」

「そ、そっか……ははは……はぁ~」


自分が勝手に思っていたこともあって、トゥカに紹介されたギルドでの受付の募集を断ってしまったことに後悔する。


「(こんな所だと知ってたら―――)」


すると、ミラがシズの手を強引に引く。


「シズお姉ちゃん! はやくしないと日が暮れちゃうよ~!」

「うん……」


涙を空いた手で拭い、ミラに引っ張られるがままギルドの扉をそっと開ける。


「すみませ―――んっ!!?」


外見から凄かったギルドの建物は、内装も整っており、本当に何処かの城の中なのではないかと思ってしまうほどだった。しばらくの間田舎の村で過ごしていたシズにとっては、中に入るのにも勇気が必要であった。

そしてシズは扉を半分ほど開けたところで、自分には無理だと確信し、開けた動作を逆再生する。


「ちょっ、ちょっと何で閉めちゃうの?!」


ミラが怒ってしまうのも無理はない。自分から行こうと言っておいて目の前まできて引いてしまっているのだから。シズはすっかり田舎と都会の格の違いとやらを見せつけられ、青ざめてしまう。


「私には…………ムリィ~!」

「ええぇ~」


駄々をこねるシズを前にミラは困り果てる。まるで二人が入れ替わったに。

すると、ギルドの扉がゆっくりと開き中から一人の女性がこちらに声をかけてくる。


「あの~、何か御用でしょうか?」

「は、はぃ」


二人はその女性に案内され、一つの受付の前までやってくる。そこはその女性の担当のデスクのようなもので、対面に座った。

その受付の女性はいかにも仕事人という感じではなく、どちらかというとチャラついた感じのお姉さんだ。少し縦ロールが入った金髪で、口元にほくろが1つあるのが特徴的だった。


「私はここの受付のメイ・バードです。 今日はどのようなご依頼で?」


メイは二人の姿からクエストの依頼人だと判断したようで、シズは慌ててその誤解を修正する。


「あっ、依頼じゃなくて私たち冒険者として登録したく―――」

「冒険者ーーー!!?」


机を乗り上げシズとミラにグッと近づく。あまりの距離感に二人は体を逸らす。

そして、メイは持ち上げた体をまた椅子へ今度は勢いをつけ座ると、腕と足を組み始める。


「はぁ~。 最近の若い子は何でこう、冒険とかしたがるかな~? それにその子!! どう見てもまだ成人していないじゃない!!」


指を差した方にいたのは、ミラだった。シズと比べると断然幼く見えるので、仕方ないと言えば仕方ない。すると、ミラはメイへ向かい手招きしだす。

メイは、耳を傾けると、ミラから何かを話しているようだ。


「…………。」

「―――!!?」


メイは急に態度を変え、机を挿んで立ち上がり、そのまま謝罪を何度もする。

その姿は、ギルドの中でも異様で、周りの同業者や冒険者から不審な目で見られていた。


「あの、話の続きは別の部屋でもよろしいでしょうか? ギルドの責任者もお呼びしますので」

「は、はあ……」


何故急に態度を変えたかは、何となく想像できた。ミラも機嫌をよくしたのか受付越しに仁王立ちをしている。どこかで見たような姿で少し可愛い。

その後、2階3階と階段を上がり、結局5階となかなか高いところまで今日何回目かの案内をされた。


「この部屋でお待ちください」


メイは焦るように部屋を出ていき、どこかに行ってしまう。残されたシズとミラは、とりあえず目の前にあるソファへと腰を掛ける。


「ミ、ミラちゃん……。 さっき何を話したの?」

「ん? 別に話してはいないぞ。 ちょ~っと立場を理解させてやろうと、映像を見せただけだ」


ミラはニヤッとしながら語る。シズはそれにあまり触れないように苦笑いをしごまかす。

すると、部屋の扉が開き、一人の男とメイが後ろから入ってくる。シズはその男にとても見覚えがあり、思わず立ち上がる。


「お父さん!!」

「おっ、なーんだシズだったのか。 緊張して損したぜ」


その男はシズの父親。今はあまり家に帰れずに、シズとトゥカをマイス村に住まわせた張本人の一人である。その男の名は、ワイアット・マークラス・・・・・・・・・・・。このギルドの長であり、実力もこのジュエンクラーラでは最高峰クラスであり、その見た目はシズとは正反対の屈強な体つきをしている。

シズはワイアットにこれでもかと攻め寄り、その屈強な腹筋に何度もパンチを繰り出す。


「もう! 全然顔出してくれないし心配してたんだよ!」


ワイアットは娘との再会に嬉しいのか口元が緩んでいる。そして、シズからの攻撃にビクともしていない。かなりえぐい音はしているのに。


「まーまー落ち着けよ。 冒険者になりに来たんだろ?」


シズは本来の目的を思い出し、ワイアットを殴るのをやめる。


「そうだった! ちゃっちゃと登録して帰りたいんだけど。 トゥカも待たせるの悪いし」

「トゥカちゃんも来ているのか!! んで、どこだ? おっ? おっ?」


娘のシズよりも嬉しそうに部屋中を見渡す。その不甲斐ない父親の姿に情けなくなる。父親のワイアットもシズと同じで獣人が好きなのだ。


「ここにはいないよ。 騎士になる為にお城に行ってるから」


するとワイアットは肩を落とし、近くにあったソファに腰を下ろす。そして、シズとミラ、ワイアットで対面する形になった。


「な~んだ。 つくづく親の跡を追う子供たちだな」

「というとトゥカの親も―――」

「あぁ、騎士の一人だよ。 といっても王宮騎士、つまり聖騎士だから会うことはないだろうけど」

「ふ~ん、そうなんだ。お父さんと違って忙しそう」


ワイアットは飲んでいたお茶を思わず吹き出す。その吹き出したお茶がシズとミラにかかりそうになりメイは扉の前でひやひやしている。


「これでもお父さん頑張ってるんだぞ! もう忙しすぎて禿げそうだ」


部屋はその言葉を最後に静まり返り、シズは横目でワイアットを見つめる。


「何だその顔は……。 まあいい。 それより話だ。 そこの嬢ちゃんのだ」


突然指名されたミラは驚く。こんな事態を巻き起こした張本人なので、当たり前と言えば当たり前だ。


「こ、こんにちは。 ミラですぅ~……」


再度部屋は静まり返る。あまりの短すぎる自己紹介。というよりもワイアットが聞きたいことはそれではないとシズは心の中で思う。

ワイアットは小さな子をいじめるわけにもいかず、ミラに優しく話しかける。


「もうちょっとミラちゃんのことについて話してくれるとおじさん嬉しいな」


ワイアットは優しく話しかけたつもりだったが顔が強張っていた。それを見たミラは怖気づいてしまう。そして、シズの後ろに隠れると耳打ちをする。


「…………。」

「ふんふん。 あー、こりゃ私から話した方がいいのかな?」


ミラは首を縦に思いっきり振り、同意の意思を示す。

そしてシズは、ワイアットに今まであったことについて端的に話すのだった。

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