第14話 杖の有無の違い
『―――……』
ドゴォンッ!!
今日二度目の轟音が鳴り響く。まずは、先の戦闘で神獣と化したトゥカと、感情と痛覚の輪廻から一時的だが解放してくれたミラの様子を伺う。
「……??」
「おかえり。 お姉ちゃんたち」
「さっきはありがとう」
トゥカは未だ現状を理解していない様子をしている。だが、察しの良いトゥカは昨日のシズの話から、睡眠学習での繰り返しが起きたことを理解した。
シズはベットから飛び上がると、戦闘態勢に入る。トゥカもシズに一歩遅れて隣に立つ。
「トゥカ。 いける?」
「うん。 もう大丈夫」
その言葉を聞き、シズは一安心する。そして、二人は右手に力を込め、各々の武器を展開する。
「―――来い。 我が
「―――“光剣”!!」
すると、前回の時と同じように半壊した家の方から火の玉が飛んでくる。トゥカはシズの前に、光剣を持った腕を出し、一歩前に出る。
「ここは私が行く。 ―――セイッ!」
トゥカはまたも火の玉を一刀両断して見せた。前回よりも素早く真っすぐに振り下ろした剣筋は、思わず見とれてしまうほどだった。
「トゥカ。 次のことなんだけど……」
シズはすぐにやってくるエマに聞こえないよう小声で作戦を伝える。
「ははっ! いいんじゃない? やってみよっか!」
初めての戦闘で緊張して強張った表情ばかりしていたトゥカが、ここに来て初めて自然な笑顔で笑う。
トゥカは光剣を納めるとシズの背後に回り、背中に右手を添える。
「シズ。 いつでもいけるからね」
「合図したらお願い」
二人はエマが来るタイミングを見計らい準備を整える。シズは、剣を地面と平行ににし自分の前に構え、その時を待つ。
すると、一人の人影が燃え盛る炎の中から現れる。
「―――今」
「“
「ン”ン”ン”ン”ン”!!」
シズの体に光が灯るとともに、トゥカの右手から勢いよく射出される。
これは光源のスキル・付与を応用したもので、石に光を付与していたことと、光速で動く神獣化したトゥカからヒントを得たものだ。
シズはあまりの速さに耐えつつ、一直線にエマに突っ込む。
「くらぇ……ッ?!」
エマに刃が当たる寸前で、左肘から焼けるような熱さが徐々に伝わってくる。
そこにあったのは、いつの間にか出現していた火の玉だった。前回にはない流れに気を取られていると、その火の玉はシズの真左で割るかのように爆発する。
「アアァっつくない?」
爆発と爆風の両方をモロに受けたシズだったが、進行方向を大きく右に逸らされただけで、特に外傷などは見られなかった。すると、体に纏っていた光が消えていく。
「この光が……」
トゥカが付与してくれた光源が、エマの魔法と打ち消し合ったのだ。だから光剣で火の玉を斬ることができたのだ。
シズと反対方向に飛ばされたエマはというと、何の感情も示さない顔で立ち上がっていた。
「回復魔法って便利だねぇ」
エマは負傷した左肩を抑え、回復していた。未だ火傷の跡は消えてはいなかったが、エマは杖を両手で握り、真ん中からへし折る。
『―――ッ!!』
「トゥカ! 気を付けて! 当たればただじゃ―――」
「シズ前ッ!!」
気づいた時には、エマの両手は炎に包まれこちらに向かってきていた。エマの最終手段だ。魔法使いでありながら武術を用いる異色の技。魔法と物理攻撃の掛け合わせ。これに対抗する手段をシズは知らない。
初めて見るその姿にトゥカは動じずシズの助けに入る。
「エマだっけ~。 その技真似させてもらうよ!」
トゥカもエマと同じく両手に光を纏わせ対抗する。その光は体を包むときの光よりも強く輝いていた。
激しい拳と拳の衝突。獣人同士のスピードを用いた戦いにシズは手出しすることを諦める。
「やっちゃえトゥカーーー!!」
「これで終わりだァァァアアアア!!!」
『ウギュッ?!!』
トゥカの右足で腹を思いっきり蹴飛ばされたエマは、燃え盛る炎と瓦礫の中へ激突する。
トゥカは両手両足に光を灯しており、エマを軽く凌駕したのだ。杖がないと魔法が使えないエマが、杖なしで光魔法を使えるシズを超えることはない。
「さっすがトゥカ~」
勝利の喜びにとシズはトゥカに抱き着こうとするが、それをシズは光を放つ手で止める。そして軽くシズと突き飛ばすと、トゥカの方から首に腕を通し抱き着いてきた。
「怖かった……けど勝てた!! ありがとうシズゥ~」
「はははっ! 全くトゥカは甘えん坊だねぇ」
シズは泣きながら抱き着くトゥカの頭を優しく撫でてあげる。家の隅でこちらを見ていたミラが、いつの間にか隣に来ており、観察眼を発動させ、エマをジッと見る。
「ミラちゃん、どうしたの?」
「ううん。 何でもないよ。 ちょっと調べていただけ……」
そう言い残すとミラは子供ながら難しい顔をする。
ピシャンッ!!
空が大きく割れ、光が差し込んでくる。勝利の味を再度噛み締めたシズは満面の笑みでその光に身を委ねる。
行きに来た時と同じ感覚に襲われ始める。
「本当にここが夢の世界で良かった―――」
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