第5話 自立の時
シズとトゥカは森を抜け、村に着いた。すでに村人は家に入り、各々過ごしている様子が漏れてくる声から伺えた。
辺りは街灯に照らされ明るかったが、家まで他のもう少しのところでシズがゴネる。
「もう疲れたー! トゥカおんぶしてって〜」
街灯にやらかから彼女をみて、トゥカはまたかと呆れる。
「疲れてるのはこっちだよ。 国中をどんなけ走り回ったと思ってるの!」
いつもなら何だかんだでおんぶしてくれるトゥカも、今回ばかりはダメなようだ。
「た、確かに……。 仕方ない自分で歩くか」
「よろしい」
トゥカのステータスをみて、疑問や不安に駆られてたシズ。普段と変わらない様子のトゥカに安心感を覚えた。
そして彼女らはようやく家に着く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「「ただいま〜」」
これは彼女ら2人の決まり。帰ってきたら必ずただいまの挨拶をする。
そして、シズが
「待って。 ここは私の出番だよ!」
トゥカはいつの間にか拾ってきた石を両手で握りしめる。すると、徐々に手の隙間から黄色い光が漏れ始める。
「それって……!!」
「そう! これが私が貰ったスキル。 “
石を握っていた手を開くと、そこには今までに見たこともないほど優しく暖かな光を放つ石があった。トゥカはそれを蝋燭の横に置くと、八重歯が見えるほどニッコリとほほ笑んだ。
「トゥカのスキルはすごいね!」
「な~に言ってんの。 シズのも十分すごいでしょ~! “観察眼”があるだけで職業決まったも同然じゃない」
シズは何のことだか分からずに、首を右に軽く傾ける。
それを見たトゥカは、もしやと思い一つのポスターをシズに渡す。そのポスターはギルドの役員の募集のもので、募集スキルにシズのスキル・観察眼も含まれていた。
「えぇ!! このスキルってそんなに重要なの!!?」
この世界ではギルドの役員になるだけで、将来衣食住と困らないほどの恩恵を受けることができる。冒険者や兵士などをまとめている機関だけあって、膨大な力を持っているのだ。
「どう? 分かった?」
ポスターに釘付けになっているシズは、とあることに気づく。
「でも、もし……。 もしもの話だけど、私がギルドの役員になったらトゥカとは―――」
「離れ離れになっちゃうだろうね」
トゥカはシズが言い切る前に即答する。それを聞いたシズは、ポスターを左右に勢いよく破り捨て、トゥカの尻尾に抱き着く。
「そんなのダメーーーーー!! 私にトゥカ無しで生きろなんて無理だよーーーーーー!」
「あんたが欲しいのは私の尻尾なのか!!?」
「えへへ」
「まったくもう」
冗談と分かっている2人だからこそ許し合える。トゥカは未だ尻尾にへばり付くシズをそのままにし、ポケットから丁寧に折られたポスターを取り出す。
「でもごめんねシズ。 私、ここに入ることにしたんだ」
新たなポスターがシズの目の前に広がる。そこに書かれていた内容は、ジュエンクラーラの騎士の募集だった。シズは、頭の中では理解しているのだが、感情の方は理解できておらず、ひどく混乱する。
「え……。 えっ、え? 騎士? え。」
「あ、でも安心して! 別に会えなくなるわけじゃないから! 一応毎日帰ってこれるみたい」
ようやく理解が追いついたシズは、不思議と涙が溢れ、子供のように泣きじゃくる。
「い"や"ーーー! い"か"ん"と"い"て"ト"ゥ"カ"ーーーーー!!」
トゥカは尻尾に涙や鼻水が垂れ、べとべとになる前にシズを振り払う。
「このままお母さんやお父さんに世話になりっぱなしじゃ悪いやろー。 今こそ自立の時だよ」
「う"っぐ。 私はどうすれば……」
「だーかーらー! ギルドで働けばいいじゃん」
シズは、トゥカが放ったその言葉にピンッと何かを思いついた。そして、涙を細い腕で拭うと、トゥカの目を真っすぐに見つめる。
「分かった。 私もギルドで働く。 “
「は。」
「私、冒険者になります!!」
今度はトゥカの理解が追いつかず、完璧にシズの突然の発想に置いて行かれる。
「なぜその発想に至ったし」
「え、だって冒険者なら自由に時間使えるし、夜は帰ってこれるし?」
「(甘く見すぎだよ……シズ。)」
正直、トゥカはシズのことをあまり頭が良くないとは思っていたが、今日それが確信に変わった。でも、これ以上言っても無駄なことは分かっているので、何も言わなかった。
シズはやると言ったら、否が応でもやってしまう子だから。
「はぁ……。 なら明日からがんばろっか」
「うん! ご飯食べてさっさと寝ちゃお~う」
「水浴びもしなよ」
「は~い」
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