The Fallen
宵待なつこ
第1話
虚空の宇宙と地球の大気との狭間に浮かび立ち、彼は今、その悠久の命を終えようとしていた。
人々が彼を守護天使と呼び、視認することは出来ずとも、その存在を認知し、畏れ、敬ってきた時代はとうの昔に終わり、今や誰も彼を知る者はいない。
彼と六人の仲間たちは数千年にわたり、人類の守護者として、天上から人間たちを見守ってきた。死した魂を浄化し、新たな生命の器へと再び注ぐことで、生と死を循環させ、淀みをなくすことが彼らの使命だった。
その仲間も今や死に絶え、彼だけがひとり残された。命は枯れ、巨大な身体はおぞましいほど醜怪に変容し、死んだ肉体の欠片が、絶えず
そのような身になってなお、彼は使命を全うしようと努めた。
それは意思や思考とは隔絶された、生物に例えるならば本能とでも呼ぶべき深い無意識の行動であり、どれだけ抵抗しようとも眠りの誘惑からは逃れられないように、彼にとって使命とは、自らが存在するために避けては通れぬ行いだった。
彼の身体が
自らの存在を賭して守り抜いてきたその世界を眼前にしながら、しかし彼は何の感慨も
生命循環の管理者たる彼がいなくなれば、輪廻転生の
その様を想像して、彼の口元が大きく歪んだ。遅れて自分は嗤っているのだという事実に気が付いて、彼は愕然とすると同時に、あたかも天啓があらゆる意識の霧を払うようにすべてを悟った。
自分が人類をこの上なく憎んでいるということを。
いつ、誰によって生み出されたのかも分からないまま、その身が朽ち果てるまで、永劫の刻を人類のために尽くすという呪いに、とうに
地球の引力に引かれ、彼の身体が炎に包まれる。明けの明星さながら、
彼は吼えた。鐘楼の鐘の
──祝福せよ、人の子よ。新しき世の黎明を。
仰ぎ見よ、人の子よ。守護天使と呼ばれた
The Fallen 宵待なつこ @the_twilight_fox
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