第3話 Perfect sleep 後編
「スリープ博士、1時間半の睡眠装置作る何て本気ですか?」
熱心に研究データを取っていると1人の研究員に問われた。
「君は不可能と考えるかい?」
「不可能ではないのでしょうけど、それが健康障害を起こす可能性は大です。1日1時間半だとレム睡眠ノンレム睡眠のサイクルが1度しか繰り返されないことになります。最低でも2サイクルは繰り返す必要があるというのがこれまでの常識です」
「開発というのはその常識を覆すから偉大なんだよ」
「健康を害してまでの物とは思えません」
研究員は1.7気圧のOⅡに横になりながら言った。
「僕達はね、この実験以外にもちゃんと寝ているから博士の研究にだってお付き合いできますけどね、1時間半の睡眠だけだと確実に健康障害を起こしますよ」
「私はすこぶる健康だよ」
「1度病院に行ってください」
ははと笑い博士はOⅡの小窓を閉めた。小窓に反射して映る顔を見ながらやはり睡眠不足だろうかと頬を撫でた。
「はあ」
スリープ博士は執務室でため息を吐いた。昼寝がしたかった。しかし自身が実験体だ。途中で眠るわけにはいかなかった。スリープ博士は身もだえしながら飲み終えたペットボトルをくしゃくしゃにし、勢いよくくずかごに投げ入れた。腹立たしかった。博士は実験ノートに『攻撃的↑』と書き込んだ。
その日も朝5時に帰宅して6時半に就寝するという事を繰り返した。1.7気圧のOⅡに寝転ぶと眩暈がした。天がグルグルと回りキーンと耳鳴りがした。心臓はバクバクと高鳴り動悸がしてきた。博士は倒れるように装置に横になった。
次の日、博士はハイだった。朝9時に執務室で堂々と、購入して来たハンバーガーを3個平らげて実験室に向かった。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
「今日は酷く気分が良いよ、誰か実験に付き合ってくれないか?」
皆は浮かない顔をした。
「博士、もうその実験は止められた方が賢明かと思われます」
「実験を止める? どうして」
「昨日、午後トイレで吐瀉して半日執務室で横たわっていた事を覚えておいででは無いのですか?」
「何?」
「昨日おっしゃってたじゃありませんか。もうこの開発は無しだって。危険すぎるからって」
スリープ博士にはそのような記憶は無かった。昨日は無事平穏に過ごせたものと思っていた。
「君それは本当かい」
「本当です」
博士はノートに『記憶力の低下↓』と書き記した。
その日も博士は5時まで仕事をして帰宅した。家に帰ると倒れる様にソファーに横になった。博士の体は限界に近かった。ギイギイと体が悲鳴を上げているように感じた。これ以上実験を続けるには不可能かに思われた。
だが、博士には意地があった。どこの誰もしていない事を成し遂げる、その意気でいっぱいだった。重く這いつくばる体を起こし酸素カプセルに向かった。もう酸素カプセルには入りたくない、どこかにそういう気持ちがあった。1.7気圧は過酷であった。博士は着ていた衣服を脱ぎ捨て雪崩込む様にOⅡに横になった。
それを続ける事2週間、ある日とうとうスリープ博士は自身の開発したOⅡから出て来ることは無かった。
各紙新聞にはスリープ博士OⅡ内で死亡との記事が躍った。
「そうか、亡くなったのか」
コーヒー片手に新聞を読みながらフレデリック博士は呟いた。秋風の心地よい優雅な朝の出来事であった。
(了)
Perfect sleep 奥森 蛍 @whiterabbits
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
山茶花の咲いた庭に/奥森 蛍
★57 エッセイ・ノンフィクション 連載中 13話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます