二人の記憶 後
女の子はなされるがまま走った。
玄関扉が自動で開き、勢いそのまま屋内に駆け込む。
「ただいまー!」と男の子が叫んでも、シンとしたまま返事は返ってこない。
「ほら、ふくをぬいで! かぜひいちゃうよ!」
連れて来られたのはホテルと変わらない造りの脱衣所で、どうやらお風呂を貸してくれるらしかった。それだけに留まらず、汚れた服を洗濯してくれるそうだ。
「う、うん」
あまりにも男の子がテキパキと指示をするものだから、彼女は考える余裕がない。
男の子はというと、なぜかこちらも追い込まれていた。すっぽんぽんになった女の子を見ると、顔が熱くて、どうしてか心臓がバクバクする。
「どうしたの?」
「な、なんでもない! お、おふろいってきて! ぼくはじゅんびしてるから!」
そう言うと彼は逃げるように立ち去り、洋服を取りに部屋へと向かった。
「へんなの……」
✽✽✽✽
彼は親からの言いつけを度々破り、友達探しの冒険に出ることがよくあった。それは決まって親達が忙しく一人になる時で、今日も家が見える範囲で冒険をしていた。
生まれながらに病を患う彼は一時帰宅している身であり、本来なら出歩くことすら許されていない。
だからこそ友達に憧れを持ち、公園で一人の彼女を見つけたときは「えものだ!」とチャンスに心を踊らせた。
そして、女の子が初めて顔をあげたあの時、彼はもうひとめぼれしていた。
涙に濡れた薄いピンクの瞳を見た瞬間、
この理由にきっと今は自覚がないだろう。
✽✽✽✽
「へぇーそうだったんだ。あ、でもぼくはだいじょうぶだよ! もうろくさいになったからかんせんしないっておとうさんがいってた!」
女の子がお風呂から上がったあと、二人はキッチンロボットが作った料理を食べていた。
「ほんとに? わたしのこときらいにならない?」
「ならない!」
「やくそくできる?」
「もちろん! ぼくはゆうげんじっこうだからね!」
「??」
少女は難しい言葉なんて分からない。だけど、自信に満ち溢れる男の子を見ていると気持ちが楽になった。
「ありがと」
「う、うん。ぜったい、まもるから。やくそくする! そのかわり、ぼくのおねがいをいってもいい?」
「なぁに?」
「お、おともだちになって!」
「…………いいの? わたし、あかめだよ?」
「あかめがいいの! ぜったいぜったい、まもるから!」
「うれしい…………おともだち、だね」
こうして彼は一人の友達を手に入れた。
親が帰ってきたあとはいっぱい怒られ、しおりちゃんのおうちにしゃざいしにも行かされたが、彼は後悔なんかしていない。
彼は成長して
それ故に肥大した恋心は、収まりが尽きそうにない。
病室の窓から見える屋上にはいつかのように佇む少女が一人。儚い姿は幼い頃から背が伸びたとしても変わっていなかった。
ああ、栞ちゃん、大好きだ。
君は僕の……生きがいだ。
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