9 ニューハイボール!


 三角ベースが無事終わり、のんびり平和が戻った、ここはしろくまBar「ヒヤシンス」。今日も常連さんでにぎわっています。


 ハイボール頼むのに「プレイボール!」と同じテンションで言いたいがために、あれ以来、黒のアンパイアマスクをつけてくるジャコウウシ氏。


 無駄に声が大きいので、そのたびにみんながビックリして飛び上がり、少し店が傾いたような気がします。いや、実質的に揺れたという意味ですよ。「店が傾いた」だなんて縁起でもない!



 ところで、さっきから誰も追及しないんですけど、今日はカウンターにしろくまマスターの代わりにフツーの茶ぐまさんがいます。

 背格好は同じくらいなんだけど、お友だちなんでしょうか。サングラスかけてるからちょっとコワイんですけどね。


「今日はマスターは具合でも悪いんですか?」

「え、何で? 顔色悪い?」

 あら、声もそっくり。


「休日にスキーに行ったら全身、日焼けしちゃったのよ」

「はっ、マスターなの? しろくま、日焼けするの?」

 うなずいてサングラスを外した茶ぐまさん、目の周りが白かった。瞳がマスター!


「ゴーグルでここだけ守られちゃったんだな」

 マフラーならぬ、呼び名サングラスでしょうか。昔の日本の刑事ドラマだったら、グラサン刑事デカですかね!



 みなさん、今日も元気です。

 さっきセイウチさんが牙でカウンターに穴を開けてしまったので、申し訳なさそうにしています。


 一角さんはイッカク編みを発明し、ずっと何かを編んでいます。一本の編み棒で編む感じです。長い長い、どこまでも長い。つまづいてアブナイから。


 しろくま事務所のおじさんたちの今のブームは、さけるチーズから魚肉ソーセージに移りました。みんなであいさつのようにプルンプルンして喜んでいます。


 その横では高級舟盛り(ウニと北寄貝)を目の前にしたラッコ君がいます。ずいぶんつまみに差がありますね。

 今日もマイ貝で一杯やっていますが、どうやら毛づくろいに疲れたらしく、テーブルの上にあごをのせたまま居眠りをはじめました。


 トナカイさんはパフィンのひよこ隊を、きたるクリスマスの配達員として鍛え上げてるそうです。

 トナカイさん忙しいですからね。月1で配っている「北極の友」も「北極のおともだち」も購読者が増えたんです。南極にもファンがいますからね。僕が担当して持って帰っています。


 しろたしろみはとうとうひらがな五十音が書けるようになったので、ちゃんと漫才の台本を書いています。

 ホッキョクギツネさんたち、しろたしろみファンは、しろくま型ペンライトを作って、ちゃんと会報誌まで出して、推しにメロメロです。


 僕はといえば、隣をみて下さい。

 オトウトペンギン(灰色もふもふ)がこっそり後をついてきちゃったんですよ。ここは僕の憩いのBarなのに!

 しかも特別にレインボージュースとか作ってもらってるし! きぃー。かわいいは正義!(ズルイ)



 北極の季節には、白夜と極夜があります。

 北極にも2か月だけ夏がくるのです。花も咲きます。氷とけちゃいますけどねー。


「マスター。お花ってどんなのが咲くんですか?」

「ムラサキユキノシタとかね。可憐な花かな」

「じゃあ、ピクニックいきましょう」

「おむすび握るよ。たまごやきも作ろう」

 わぁ、とっても楽しみです!


「たまにはこっちにも遊びに来て下さいよ」

「えー、南極の方がめちゃくちゃ寒いじゃない。こたつ用意しておいてくれるなら」

「じゃあ、温泉行きましょう」

「え、温泉あるの? ここらじゃアラスカまで行かないとないよね」


 いやぁ、日々生きていくのって疲れますよね。温泉でも行かなくちゃ、やってられない! みんなで行きましょう。



 あっくんがね、まんまる氷にすてきなものを閉じ込めました。

 3種類のすてきな新メニュー。それはニューハイボール。

 グラスの中で解けながら、発光するのです。

 

 閉じ込めたのは、「月」「花」「夕陽」

 君なら何を包んでみたい?


 カランと最後に氷が音をたて、香りを放つ。

 もう秋の到来です。





the end.

or

to be continued?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しろくまハイボール! 水菜月 @mutsuki-natsumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ