魔力0の元魔法使いはどうやってSSSランクの杖使いになったのか

アベット:今回のゲストは、今王都で大人気の自伝ファンタジー『魔法学院追放から始まる杖使い英雄譚』著者のセリオスさんです。おや?約束の時間なのに、姿が見えませんね……


セリオス:隙ありっ!


アベット:うっ……!な、何をするんですかいきなり。


セリオス:少し油断してましたね。冒険者たるもの、いついかなる時でも襲撃される覚悟をしておかないとだめですよ。


アベット:だからって、いきなり背後から突いてこなくても……うん?なんだか妙に身体がすっきりしているような。


セリオス:だいぶ肩が凝っているようだったので、コリをほぐす経穴を突きました。


アベット:おお、そんな技まで持ってるんですね。さすがは杖使いSSSランクだ。


セリオス:僕は見かけが貧相なので、なかなか杖が使えるって信じてもらえないんですよねえ。こうして実際に見せてみないことには。


アベット:見かけは典型的な魔法使いって感じですもんね。今もローブを着てるし。


セリオス:ところが、いざ魔法学院に入ってみたら、まったく魔法の才能がなかったんですよ。最初の物理魔法実習のとき、教授にお前の身体には魔素マナがまったく存在しないって言われてしまって。


アベット:身体のなかの魔素マナを炎や氷に変換するのが物理魔法ですからね。


セリオス:僕は筆記試験の成績だけは良かったんで魔法学院には入学できたんですけど、まさか魔力がまったくないとは教授陣も予想してなかったようで。学院長に言わせると、100年に一度くらいしかそういう人間は生まれないそうです。


アベット:マイナスの才能の持ち主だったんですね。で、『魔法学院追放から始まる杖使い英雄譚』だと、セリオスさんは学生用の杖まで取り上げられて放校処分になり、しばらく日雇い仕事で食いつなぐわけですけど……


セリオス:あ、そこはフィクションですね。


アベット:本当はどんな感じだったんですか?


セリオス:杖を取り上げられそうになったので、その場で教授陣を全員叩きのめしてから学院を出てきました。


アベット:え、その時点から強かったんですか?


セリオス:なんか、怒りが沸点を超えるとまわりの動きが遅くなって見えたんですよね。あれが僕の天与の戦技アーツだってことはあとからわかったんですけど。


アベット:その「天眼」の戦技アーツは、小説ではコンロン山の老師のもとで修行を積んで身につけてましたよね。もしかしてあの修行もフィクションですか?


セリオス:ええ、本当は魔法学院のローブを着たまま、王都の貧民街で杖の練習をしてたんです。


アベット:なぜ貧民街に?


セリオス:ああいうところに行くと、僕の外見を見て舐めてかかったごろつきがお金をゆすり取ろうとしてくるんですよ。そういう連中を相手に杖をふるってましたね。だいたい一分以内には全員気絶させて、財布の中身もそっくりいただいてましたけど。


アベット:それ、練習っていうより完全なイジメでは……


セリオス:いやいや、これは正当防衛ですよ。先に襲ってきたのは向こうだし。


アベット:理屈はそうですが……でも、それだと本当のことを小説に書くわけにはいかないですね。


セリオス:そうなんですよ。編集者には全然リアリティがないって原稿を突き返されるし、なにより教育に良くないって言われるので。


アベット:セリオスさんの小説の読者は、おもに貴族の子弟や裕福な商人のお子さんですよね。


セリオス:そう、だから子供の生き方の見本になるようなものを書けって言われるんです。努力もせずに最初から強い主人公なんて求められてないんですよ。


アベット:私の転移元の世界ならそれでもいいんですけどね。


セリオス:ヤーパンでしたっけ?アベットさんの元いた世界。僕みたいなお行儀の悪い主人公でも大丈夫なんですか?


アベット:向こうの小説は教育のためのものではないし、ごろつきを叩きのめすのもむしろ痛快だと思われるでしょうね。


セリオス:なるほど、僕もヤーパンに生まれたら良かったかな……こっちの世界だと、書きたくても書けないことも少なくないですから。


アベット:他にも小説に書いてないことってあるんですか?


セリオス:魔王戦争の巻には大幅に削った部分がありますね。


アベット:セリオスさんが聖騎士アルノルドを助けて大活躍した巻ですね。戦技アーツの神速旋風杖で魔王軍の10万本の矢を跳ね返したシーンは圧巻でしたが、やはりあの巻も実際の戦争とは違うと?


セリオス:ここだけの話、アルノルド様には俺に戦功を譲れって言われまして。


アベット:ええっ、それってどういうことなんですか。


セリオス:魔王戦争編で、アルノルド様が暴竜ヴェルキンゲトリクスと一騎打ちするシーンがありましたよね?あれ、実は僕が途中までヴェルキンゲトリクスと戦ってたんですよ。


アベット:本当はアルノルド様は戦ってなかったと?


セリオス:正確には、僕があと一突きってところまでヴェルキンゲトリクスを弱らせたら、最後の一太刀をアルノルド様に譲れって言われたんです。


アベット:で、その通りにしたんですか?


セリオス:僕もアルノルド様の引き立てで王国軍に入れてもらってる身ですからね。あの人は王族の血を引いているし、オーランド王国からすれば竜殺しは王族でないとまずいんでしょう。一介の冒険者が王族を上回る功績をあげては、王族のメンツが立たないんですよ。


アベット:それは世知辛い……


セリオス:あのときはいっそ、アルノルド様の首をとって魔王軍に投降しようかなとちょっと思いましたね。


アベット:それをされたら今頃ここは全部魔王領になってますよ。


セリオス:でも、長い目で見たらアルノルド様の言うことを聞いておくのも悪くないかなと思ったんです。あの方が僕に後ろめたさを感じている以上、これからも僕に便宜をはかってくれるでしょうからね。


アベット:なるほど。


セリオス:それに、アルノルド様の幕下にいれば王宮の舞踏会だとか、貴族の鷹狩りだとか、一冒険者ではなかなか見ることのできない場面もこの目で見ることができるから便利なんですよ。


アベット:それはとても大きなメリットですね。私みたいなヒラ冒険者だと、宮中の取材なんてなかなかできませんし。


セリオス:なので、しばらくはアルノルド様の下で働くのも悪くないかなと思っています。貴族とつながりを持っておくと、ネタには困らないんですよ。


アベット:でも、オーランドと魔王軍はもう和平を結んだし、今王国は平和ですよね。しばらくは杖使い英雄譚みたいな戦記物は書けなさそうじゃないですか?


セリオス:なので、今度は宮廷恋愛物を書いてみようかと思っています。王族のそばにいると、いろいろな噂も耳にしますから。


アベット:おお、新ジャンルに挑戦ですか。宮廷って、やっぱり不倫って多いんでしょうかね?


セリオス:昔はそうでしたが、今の王様は風紀に厳しいので、最近は幻影魔法を用いた想像恋愛が流行してますね。


アベット:想像恋愛?空想上の相手と恋愛するってことですか?


セリオス:そうですね。なにしろ空想の中なら何やっても罪にはならないので、どんどん想像が過激になる傾向があるようです。アルノルド様なんて、魔王と恋に落ちる空想にふけってますし。


アベット:聖騎士が空想にのめり込みすぎるのもそれはそれでまずいような……


セリオス:実は王様もそこを心配しておいでで、直々にアルノルド様の性根を叩き直してやってくれと頼まれてるんです。


アベット:そんなこと言われても困りますよね。


セリオス:この間なんて、一人で盛り上がりすぎて貴方のためなら死ねる!とか叫んで城壁から飛び降りそうになったので、急いで急所を突いて気絶させました。


アベット:しかし、それでも危ないですよね。いつでもセリオスさんがアルノルド様のそばにいられるわけではないから、いつアルノルド様が死んでしまうかわからないですよ。


セリオス:まあ、仮に死んだら王族が魔王の幻影のせいで死んだことになるし、その場合、また魔王軍と戦争になるだろうから僕の活躍の機会も増えますよね。


アベット:……セリオスさん、貴方が魔王の幻影をアルノルド様に見せようとしたわけではありませんよね?


セリオス:いやだなあ、僕は魔力0なんですよ。魔法が使えない僕なんかに何ができるっていうんですか?


アベット:そういことにしておきます……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒険者作家アベット対談集『異世界で作家として生き残るには』 左安倍虎 @saavedra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る