第5話 悪の組織本部って憧れるよね

「それでここへ来たの?」


「はいどこか良い場所ないですかね」


 カッコよく言えば作戦戦略指揮軍備室。学校の教室風に言えばパソコン室に来ていた。よくある都会のオフィスでも想像してもらえれば大体合っている。ここを増設する際に個人的な趣味でアニメに出てくるような悪の組織本部という雰囲気にしたかったのだがスタッフ総員の反対により普通すぎる空間になってしまった。

 

 デスクトップパソコン、レーダー、大型液晶画面と様々な物が置いてあるが中でも目立つのは巨大サーバーだ。正直私には存在意義がよく分からない。けれど彼女からするとそれは必要な機材らしい。


 白衣をきた少女に見える女性。彼女の名は渡辺さん。昔仕事をクビになって露頭に迷っていた所をうちで働きませんかとスカウトしてきた。パソコンの技術ができるからと採用したがその実中身はとても頭が良くて驚いた。こちらが教える知識を水を得た海魔のように吸収していくのだ。


 『文章が書けてデータ保存ができたらいいなーパソコンってあれば便利なんだろうなぁー』程度に考えていたのに気が付けばこんな大掛かりな設備に変わっていたのだ。AIの導入と監視装置による自動警備システムはどうだろうとか言われた時は何言ってんだこいつと思った。悪魔にそんな事求めないでほしい、こちとらローマ字入力で精一杯なのだ。


「魚人族の移住ね」


「うちでは受け入れ厳しそうなのでどこか別の世界で……条件の良い場所があればそこに移ってもらおうかと」


 渡辺さんは眠い目をこすりつつコーヒーをマグカップで飲んでいる。彼女はまず身長が低い。おそらく150cm程度しかなさそうな彼女の見た目はただのロリっ娘にしか見えないがタバコを吸える程度には大人だ。彼女の見た目の割には大きな胸を見つめているとふざけるなこいつめと思ってしまう


メガネでロリで巨乳で博士?

頭がよくておまけに実はお姉さん?

一昔前のラノベだってここまで属性盛らねーよ


 そんな燃え上がる憎悪を抑えつつ思わず自分の胸を見下ろしてしまう……大丈夫まだ成長期だ、きっと大きくなってサキュバス並みになるはず。悪魔の成長期はいつまでなのかは考えない。


「つまり魚人達が移住できる場所を探せと?」


「えぇそうですちょっと調べて欲しいんです」


 ここにはこれまで関わってきたあらゆる世界のデータが入っている。種族、地形情報、人口の推移、超常現象の有無といった様々な物を大きな巨大サーバーに保管してあるはずだ。だからきっと彼女に聞けば分かると思ったのだが…


「ごめん…さすがに海水の塩分濃度までは分からないなぁ」


「そうですよねぇ。やっぱり湖に直接塩と手を加えた方が…」


「そもそもそんな単純な話じゃないよ」


「え?」


「いいかい?そもそも海水というのは塩というより塩素とナトリウムの化合である塩化ナトリウムという素材で構成されているんだよ。他にもカルシム・カリウム・マグネシウムといったあらゆるミネラルの構成から――――――――」


 あっこれ話がながくなるパターンだ。エルフのおじいちゃんが縁側でお茶を飲むとき決まって長話になるから知ってるもん。そう考えると私は即座に意識をフェードアウトさせ今晩のおかずは何かなぁと考え始める。気分的には豚の角煮かゲイザーの炭火焼もいいかもなぁ。その後彼女は優に10分は話しをして―――


「………」


「という訳。分かった?」


「あ…ごめんなさい意識飛んでました」


「おいおい…かなり噛み砕いて説明したんだけど」


 そんな風に言われても困る。途中明らかにいらない歴史とか入っていたし、十分も話を聞かされた身になってほしい。お願いだからもっとわかりやすく言ってくれ。


「つまり探すなら周囲に山がたくさんあって標高自体は低い水場を探せって事」


「おぉ分かりやすい!最初からそう言って下さいよぉ」


「はぁ…もういいよ。私はいくつか条件に合いそうな場所を探しておけばいいんだよね?」


「見つけたら言って下さいね。あとマーメイド達には協力してもらうつもりです」


さっき話にいったのはそれが目的だ。実際に見つけたら水中を自在に動けてかつ戦闘に長けた種族に手伝ってもらうのが一番だ。見つかったらそこの近辺と水の中の調査をしてもらおうと思っている


「あぁ後は空を飛べる種族が居たら便利かも」


「周辺の外敵調査かそれも大切ですよね。うまく自給自足できる環境ならいいんですけど」


調査隊の派遣

人魚族への談合

魚人族の当面での宿泊地の確保



やるべきことはたくさんありそうだがまぁなんとかなりそうだ。大変な事ばかりだがやりがいはある仕事だと思う




改めて気合を入れるとともにやっぱり今日の夕飯は焼き魚にしようと考える私なのであった。

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