第7話 優雅な休日
私がこの世で最も許せない事が二つある。一つはもやし野郎が細マッチョとか言われもてはやされる事。そして二つ目はアニメや映画の吹き替えでタレントが出しゃばってくる事だ。
誤解しないで欲しいのだが私はアニメが大好きだ。これでも悪魔生300年は経つし様々な物を見たり経験したりしてきた。それでも初めてアニメを見た時の衝撃は今でも忘れられない。私が生まれ育った魔界に娯楽自体が少なかったというのもあるけれど。逞しく勇敢な主人公、可愛らしいヒロイン。今でこそありきたりなアニメだったと思うがそれでも初めて見たそのアニメは今でも大切な思い出の一部だ。
その後は色々な作品を見たし幾つものDVDをコレクションしてきた。お色気に走ったエッチな物も暴力表現マシマシのスリルでサスペンスなアニメも種類を問わず大好きだ。
映画を見るのだって同じく好きだ。人間の娯楽への欲求という物はとてもすさまじい。中でも知的創作物に対する意欲は目を見張るものがある。様々な種族が世の中には存在するがヒューマン文化はその中でも飛びぬけて凄いと思う。この間の海外の大作映画なんて見終えた途端全身に震えが走ったものだ。
正直悪魔の中でもトップクラスにアニメや映画を愛していると言っても過言ではないだろう。他にアニメを見る酔狂な悪魔が居るのかは分からないが。だって私が勧めてもみんなグロテスクな事ばかり好きなんだもん。映画の良さを教えてもそれなら実際にやった方がよくない?映像見て何が楽しいのとまるで理解してくれなかった。女子供にグロテスク&サディスティック行為を勧めないで欲しい。まぁ悪魔の倫理観なんて茶さじ一杯分もないだろうけど
まぁともあれそれくらい映像作品が好きなのだ。アニメは一つの世界観であり映画は一つの芸術なのだ。だからこそ許せない。声優という専業職業から仕事を奪い「難しかったけど楽しかったです♪」とか「声優さんのお仕事尊敬しちゃいます」とか言ってしまうタレントが。タレント声優が全員悪いとは言わない。そこから素晴らしい演技をする人だって勿論いたし声優としての技術があればいいのだが無い人は本当に勘弁してほしいという話だ。こっちは笑いと涙有りのアニメが見たいのであって棒演技が見たいわけではないのだ。見ているこちらまで引きずり込まれるような時間を体験したいのであって決してこいつ演技下手くそだな、とか思いたくないのだ。声優はアニメのすばらしさを強調する引き立て役であると同時に欠かせない主役でもあるのだ。カレーで言う福神漬け。ボクシングで言うセコンド。お互いが無くてはならず互いに魅力を引き立ててこその存在なのだ。一人の視聴者一人の悪魔としてそこは断固として主張していきたい。そこんとこどう思うよ、えぇ?
「長いし話がくどい」
「ひどい!!」
ばっさりと切り捨てポテチをほおばる雪女。私のアニメ論は彼女の心を震わせる事ができなかったようだ。でもいいのか、私達が今見てるアニメ映画の芸能人声優とかとてもひどいぞ?棒演技すぎてギャグ映画なのに変な笑いしかでないもの
私の心中での嘆きもお構いなしにアニメのDVDを容器へと収納する彼女。この女性は雪女でよくこうして映画をみる映画友達だ。せっかくの休日なのだからと彼女をさそい今日もこうして彼女の部屋で文化的遊戯を楽しんでいた所だ。
彼女は妖怪らしくホラーサスペンスが好きらしい。けれど同じ位恋愛映画も好きでよくどれを視聴するかでケンカになる。『他人の恋愛とか見て何が楽しいんだよ、その前に自分の恋愛しろよ』と言ったら本気の殴り合いになったのは記憶に久しい。雪女のクセに妖力とか使わないでスリーパーホールド使ってくるのはどうかと思う
「次は何を見ようかしら」
「じゃあこの筋肉が躍進する戦争映画を見ましょう」
「えーまたあんたの性癖見させられるの…」
「いいじゃないですか筋肉」
「あんなののどこがいいの?汗臭いし男臭い」
「あぁ?」
「マッチョとかむさくるしいだけじゃん気持ち悪い」
「あん?喧嘩売る前に彼氏でも作れや恋愛雑魚が」
「上等だ貧乳ロリ悪魔」
こいつは今言ってはならない事を言った。もういい美人で温厚な私でも我慢の限界だ。じゃんけんで映画を決めるのはもうやめだ。かくなるうえは肉体言語で上下関係をわからせてやる。全身の魔力を滾らせ雪女の無駄に発達した身体にとびかかる私。速攻でかたづけてやると意気揚々に襲い掛かるものの速攻で締め技をくらい返り討ちにあった。
今さらだがどうして妖怪の彼女はこんなにもプロレス技に長けているのだろう。そうして私は泣く泣く恋愛映画をDVDプレイヤーにセットして一緒に映画を見るのであった。
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