第3話 魚人族移住問題

 魚人族という種族が居る。


 外見は魚のように鱗にびっしりと覆われた手足をしており体躯は平均1mとやや小型。戦いを好まない穏やかな種族である。彼らは先日他種族からの迫害から逃れたいとここへやってきた人々だ。


 魚人族の特徴の一つとして生息地域がある。というのも塩分濃度が10%と非常に濃い水域に生息する事を好むのだ。地球では海水の塩分濃度が平均3,5%である事を考えるとかなり特質的な生息地域であると言えるだろう。


 地球上では死海と呼ばれる場所がある。死海では塩分濃度が30%もあり微生物を除くと生命はほとんど存在しえない。濃すぎる塩分は生命を遠ざけるため排他的な場所になりがちなのだろう。その事から考えるに塩分濃度が高い場所を好むのは彼らの外敵から身を守る原始的本能に近いものがあると言えるかもしれない。


つまり…


「この施設の湖には住みたくねーと」


「おっしゃる通りです…」


 困ったような顔をしてうなずく魚人族の長。随分疲れた顔から察するに仲間同士の話し合いでかなり苦心したのだろう。私達としては受け入れるのは大いに歓迎なのだがどうにも難しい。


 普段はこうならないように注意を払って受け入れ準備をしてから種族の転移を行うのだがまさか塩分濃度がネックになるとは…まぁ彼らからしたら「塩辛い水」が常識なのだからこれも仕方ない。種族間の壁、文化の違いから往々にしてこういう事態は起こるものだ


富士山の美味しい湧水をコップに入れて彼は飲む。

いや真水は飲むんかい

食べ物と住む場所は別って事?いや文字だけみたらそりゃ当たり前だけど


「ここにはあそこの湖以外大きな水域がないのです」


「拝見しました、かなり大きな湖ですね」


 湖自体はここ、事務所の窓からも見ることができる。野球スタジアムだっていくつも入ってしまいそうなその湖はとある種族が苦心してつくりあげたものだ。じゃあ湖に塩をぶち込めばいいかというと勿論そうではない。現実的に厳しいというのもあるがなによりその最大の難関が…


「マーメイドなんですよねぇ」


 通称マーメイド、人魚族の事である

 湖に30名近くいる彼らは何より綺麗な水を好む。彼らの綺麗な水への情熱は一種狂気じみている。海水に漂う喪やらボウフラが許せないと言って魔法で意気揚々と駆除していったのは流石の私もどんびいた。伝承では海に棲むとされているのになぜ淡水を好むのだろう。綺麗な水の方がおいしいからかな?


 魚人族の間ではマーメイド、俗にいう半人半漁の存在は半ば空想上の産物とされていた。ここで厄介なのがマーメイドに対して一種信仰じみた想念を持つという事である。なんでも人間の上半身と魚の下半身を持つ人魚という存在は『陸と海を結ぶ物』として超常の存在が遣わした存在(人間が想像する天使に近い概念)らしい。だからこそここに来た当初は大層驚いていたものだ。まぁ幻想上の生き物が昼寝していたりビーチバレーしていたらそりゃ驚くだろう


あれ?ここにはビーチってなかったよね

じゃあ正確には湖バレーかな?

マーメイドに誘われていたし今度の休日は湖バレーもいいかな


「今下らない事考えていたでしょう」


「そんな事ないよメーちゃん!」


同じ部屋にいた女性型悪魔に一瞬で見透かされた。なぜだかわからないが彼女にはどうにも隠し事が通用しない。なんだ読心術でも使えるのかな?どこかにいるだろうサトリ妖怪に弟子入りでも考えてみよう


「ともあれマーメイドにまずは相談するべきでしょう」


「しかしメ―殿…」


「えぇ人魚族が納得をするかどうかですね」


ごめんね!

新入りさんの為に湖に塩をぶちこむね!

信じられない位しょっぱくなるだろうけど許してね♪


こんな事を人魚に言ったらたぶん私達は無事では戻れない。

私も実際に見るまではよく分からなかったのだがあれでかなりのヒステリックな激情家なのだ。物語に出てくる優しく美しいマーメイドというのはある意味幻想にすぎないのである。異世界ファンタジーの悲しい所だ。ともあれ何とかしなければ確実に人魚との親交関係がパーになるだろう。


「ではこういうのはどうでしょう」


「え?」


「私にいい案があります。まぁ任せて下さいよ」

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