こちら異世界派遣団体です

紅葉

序章 とある世界において

世界に怪物が現れた

なんてそれだけ聞けば笑ってしまうような言葉だ


 事実そのニュースを聞いた時は誰一人真剣に受け取らなかった。きっとそれがいけなかったのだろう。気が付いた時にはすべてが手遅れになっていた。その怪物が現れたのはS地方N県とされている。どこから来たのかは分からずどうして生まれたのかも不明


ゾンビ グール 死人 


 そうとしか形用できない怪物だった。警察が奔走しマスコミが狂犬のように騒ぎ立て。ようやく本当なのだと理解した。その時には何千人という人間が犠牲になった後だった


奴らは恐ろしく狂暴だ


 血を垂れ流し全身から禍々しい瘴気をまき散らす。うなり声を挙げつつ生者にたいして貪欲に追い詰める。そしてゾンビのように人間を喰らっていくのだ。一人が感染しその家族、友人も感染する。そして食われた者も怪物になり果てる。まるで質の悪い三流映画をみているようだった



 目の前で友人が怪物に食われる様を尻目に僕は夢中で駆けだした。死に物狂いで暗闇の中路地裏を駆けていく。そうしてD市の公営施設に入り込んだ時には全身がくたくたに疲れ切っていた。そこから後は崩れ去るように自体が悪化した。


 避難する市民。僕たちは可能な限り精一杯のバリケードを建て必死に防備を整えた。自衛隊はまだか警察はどうしたと騒ぎ立てていたのが懐かしい。


三日たち

人々から余裕が消え


一週間がたち

人々から表情が消えた


更に二週間がたったころようやく皆が理解した


もう逃げ場などどこにもないという事を

このまま自分たちは死ぬしかないのだと


 そこから先は書くのもはばかれる位酷かった。食糧や物資をめぐり殺し合いが始まったのだ。たった一つの缶詰の為に一人の子供が大人に殴り殺された描写など聞きたくもないだろう


 僕はここで起きた事を書き記そう。そう思い今もこうしてくしゃくしゃのノートに筆を走らせている。可能な限り詳細を書きたいのだがどうにもだめだ。最早その時間すらないらしい。バリケードが破られた。目前ではグール達が蟻の大群のようにここへ向かってきている


どうやら本当にもうだめらしい


 妹が泣き崩れてよりかかってくる。死にたくないと泣き喚く彼女、パニックに陥る市民たち。阿鼻叫喚の地獄の中、僕はネットのとある噂を思い出していた



曰く正義の味方がいると


全てを救ってくれるヒーローがいると


 その人に相談をすると困り事を直ちに解決してくれるという。インターネットに転がっているような下らない噂だ。ばかばかしい、この年になってそんな都合がいい話なんて信じられるものか。そう思いつつも以前メモしておいた番号にコールしてしまう


もしも本当に正義の味方がいるのなら

もしも目の前の人々や僕の妹を助けてくれるのなら


僕は魂を差し出したって構わない



だってもう…このまま死ぬしかないのだから



血塗れの手で携帯を操作する

あぁもうあの大扉が…施錠も持ちそうにない


あぁお願いだ…


誰か…助けて……


藁にもすがる思い

震える手で携帯を耳にあてがうと―――




『はい、こちら異世界派遣団体です。このメッセージの後にご用件をどうぞ!救助要請の方は1番を、それ以外の方は2番をプッシュして下さい♪』

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