第1話 飲み屋で愚痴
「うぅ親父さんもう一杯」
「飲み過ぎじゃないか?」
さらりと忠告してくる店主。まぁいつもの事だ。古ぼけた木造の屋台は人々に酒と歴史を匂わせる。正直酒を飲む文化など欠片も理解してこなかった(むしろ馬鹿にしていた)がここに来てからは三日に一度は酒を飲んでいるのが我ながらなんとも悲しい
仕事明けの一杯はよくこの屋台で飲んでいる。もう互いに気心も知れているという物だ。ジョッキビールを片手にごくごくとそれを飲み干す。あぁ仕事終わりのこの一杯は格別だ。一日の疲れなど吹き飛んで…しまいはしないかな
「今日の人達は一段と酷かったです…」
「また避難民の保護かい?」
「そうですよ。こっちは善意でやってるのにまるで理解してくれない」
あれから避難コールを受けた私はC級の戦士を派遣。敵対生命体とやらは戦闘力が弱く繁殖力が強いタイプらしい。4級災害にして記録しておいた。まぁ彼らなら大丈夫だよね。
こっちは54名の異世界移転の為奔走。食料やら寝具やらを提供してお風呂まで用意してと大変だったのだ。浴場施設担当の水精霊さんは夜中に起こされて怒っていた。泣きたいのはこっちだ。
「開口一番ここはどこだ、何かの陰謀だとか」
魔法であなたたちを移転させました
ここは元居た世界ではなく異世界です。
当面の衣食住を提供します。
(仕事用)笑顔と共に懇切丁寧な説明をした。だというのに彼らは魔法なんてありえないとかここから出せとか人権がどうとか言ってきた。人権ってなんだよ私悪魔だからわかんねーよ。
挙句の果てにはこれはTV局の収録か政府の陰謀施設という事になりそうだった。もう静かにしてくれるならなんでもいい。とりあえず後の事は後輩悪魔のメ―ちゃんに任せてきた。
メ―ちゃんは涙目になった。
帰れると思った仕事が長引く事ほどいやな事はないよね。
「お金を出してここにしばらく居ろ。代わりに助けてあげますよってだけなのになんでこんな簡単な事も理解してくれないんだろう」
「俺なんか食べ物貰えるなんてラッキー程度に思ったけどな」
「そう単純だったら有難かったんですけど…親父さんもう一杯」
「はいはいもう酒はやめときな」
「つれないなぁ親父さんも飲んで下さいよ」
「いや俺竜人族だから酒はちょっと」
「……」
酒が飲めないのになんで居酒屋の店長やってるんだろう。彼の蜥蜴フェイスを眺めつつ私は酒を味わった
…うん美味しい
―――――――――――――
翌日。
私は絶好調になっていた。
腐っても悪魔だ。この魅惑的なボデーは決して二日酔いになったりしない。最近ちょっとお肌が荒れ気味な気がするけど気にしにない。
澄み渡る空
広がる雲
あぁなんて素敵なんだろう
大空を眺めていると小さな悩みなんて消えてしまう
もう昨日の事を気にしていた自分とはおさらばだ
鼻歌でも歌いたい気分
さぁ今日も一日頑張ろう
そう思いつつ職場のドアに手をかける
だってそうだ
世界はこんなにも――――
「社長、アルラウネ達がストライキをしました!給料をあげなきゃもう野菜を育てないと言ってます!」
「おい居住区エリアでドワーフとヒューマンが乱闘だ」
「すみません、マーメイドの方々が湖へ神殿の建設許可が欲しいと…」
残酷なんだから
…また今日も徹夜を覚悟しなければならないようだった
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