書くということへの、視野が広がる物語

まず、10万字以上あるとは思えない、いい意味ですごく読みやすい小説です。それは、しろもじさまのこれまでの作品にも言えることなのですけど。それだけじゃなくて、今まで以上に登場人物たちがとてもしっかりと描かれています。主要登場人物それぞれの良いところ、悪いところがきちんと描かれていていて、書き手にとっては勉強になります。

そして、この作品のテーマ。カクヨムに投稿されている多くの人にとって、とても身近で、そして考えさせられるテーマです。大げさに言うと、生きていくということと、小説を書く(もしくは、なにかを表現する)ということのせめぎ合いみたいなもの。それって、とても普遍的だけど、とても難しい内容だと思います。

かつてほんの一握りの限られた人たちだけが行っていた表現活動は、主にITとネットの進化と普及にともなって、その姿を徐々に変えようとしていると感じます。もしかしたら、これからもっとドラスティックな変化を迎えるかもしれない。そんな気がしています。

この作品では、そこまでのことに触れてはいませんけど、物を書くという行為に対して、とても広い視点をもった切り口で書かれていると感じます。そこに、作者の表現者としての視野の広さと、とてもフラットな物の見方が感じられて、私はそこがとても魅力的なのです。

でも、そんな小難しいことは関係なく、とても楽しめる内容なので、カク人も、ヨム人も、ぜひぜひ、覗いてみてはいかがでしょうか。書くこと、表現することに対して、新しい気づきが得られるかもしれませんよ。