悩みすぎる純情な感情

直球ストレートなお話です。
予想はできる。蛇の話も、朝霧の秘密も、結末も、ああそうかというもので、捻りは特にないんです。
それでも読み進めてしまう。ベタだからこそ、いいのでしょう。

人物の感情をとにかく掘り下げて、どうにかしたい、なんとかしたいと、読み手にシンクロさせていく。
焦らし方も上手いです。ぐでぐで悩んで焦らされます。でもそれがいいのです。
冒頭で、朝霧がついた嘘が思わぬ方向に発展していく。この繋ぎ方も上手いと思います。テーマにも繋がっている。

麻里と朝霧の間には、最後まで(?)恋愛感情を持ちこませないスタンスが素敵ですね。そういう話ではないんです。
恋愛要素を削り落として、悩みを共有する二人。絶妙な距離感、空気感。

温度の低い文体も、ホラーな演出を掻き立てます。
妖怪、怖いです。迫力あります。
麻里は妖怪が見えて、見えることに気づかれると、襲われてしまうという恐怖。
麻里にとってはこの世界がスラム街のようなものです。歩いていると、ヤンキーな妖怪に因縁つけてられてしまうんですね。理不尽なものです。
心強い味方ができたとはいえ、肝心なところで頼りない彼ですから、麻里の今後も苦労するかと心配になってしまいます。

最後まで読み終えると、タイトルが非常に秀逸。

レビューの締めに、気に入った一文を引用させていただきます。

『見たくもないのに色々とおかしなものばかり見えるこの目だけれど、綺麗なものがちゃんと綺麗に見えるのは他の人と何も変わりは無い。』

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