大人になるのって、そんなに大したことじゃない。

実際にどこかで起こっていそうなくらい臨場感のある事件を追いながら、それに絡む刑事達と、それに絡む友人達の、それぞれの思いがとても丁寧に書かれた作品です。
ミステリーだしサスペンスだし恋愛だし友情だし、溢れんばかりのてんこ盛りなのに、それを語る作者様の筆致がどこまでいっても涼しげで、もうてんこ盛り食べたから満腹です、とこちらに言わせない清涼感が心地よく全編に流れています。
事件自体は彼等を巻き込みながら複雑に進展していき、たどり着く結末というのもまた「実際にどこかで起こっていそう」なくらい生々しいのですが、それらを動かしているのが全て人間の感情であるというリアリティが、登場人物のセリフに、ちょっとしたしぐさに細かく刻み込まれていて、「物語のために動く彼等」ではなく、「ただ生きている(ように見える)彼等」としてこちらの目に映ります。
その彼等ですが、これがまた人間味溢れる人達でして、みんな一様に悩んで、悩んで、悩んでいます。恋に、友情に、家族に、自分に、悩んでいます。だから思ったのですが、大人になるのって、そんなに大したことじゃないな、と。大人になれば何かが完成されるわけじゃなく、相変わらず未完成で、相変わらず悩んでいくのだな、と。作者様が丁寧に書き上げた(生きてるように見える)彼等に、そんなふうに教えてもらった気がしました。