コミック発売記念短編ども

コミック2巻発売記念短編「アイドルになった勇者パーティは歌と踊りで世界を平和にする」

 ここはなんかがなんかしてなんかなった世界…………


「というわけで、俺たちはアイドルグループとして売っていくことになったんだ」


 ちなみにこの世界観に『アイドルグループ』という概念はないので、なにか近似したことをつらつら語ったと思ってください。


 というわけでアイドル活動である。


 こいつらが誰かというと最近『勇者パーティ』とか言う名前で売り出し中の冒険者四人組であり、メンバーは『死霊術を使うコミュ症』『宗教のコミュ症』『暴力』『勇者』の合計四名である。


 最近は魔族との戦いも膠着していて(※数百年単位でずっと膠着し続けてます)、前線ではそりゃあ戦いもあるのだが、人々は『戦いで活躍する勇者パーティ』というものに飽き始めていた。


 この世界線の人類はちょっとだけ賢いので『いくら戦っても相手側に前線が動くわけじゃないし、命懸けではあるけど俺は死んでないし、武功ってなんの意味もなくねぇ?』ということにうっすら気付いていたのだ。


 なので〝アイドル〟をします。


 勇者パーティの四人は天幕内に集められていきなり切り出されたのでなんだなんだとなったが、勇者というのはこの異常者集団に意思決定権限を認められているので、反対意見は出ない。

 宗教の人は『あなたが言うならそれが正しい行いなのでしょう』のスタンスだし、暴力は食べ物をくれるならなんでもいい。

 ただ死霊術を使うやつだけはちょっと文句を言う。


「俺たちにそんなことができるとは思えない。だいたい、なんで急にアイドル? まったく意味がわからないし、そんなものが研究に役立つとも考えられない。だってアイドル活動は人が死なないじゃないか」

「しかし、金になる」

「……まあ、君がそう言うなら……」


 ちょっと文句を言って、しかし大した信念や考えがあっての反対ではなく、反射的にとりあえず浮かんだ文句を言ってみるだけなのだ。

 少し押されるとすぐに引き下がるので、『こいつ文句ばっかり言うけどけっきょくやるんだよな……めんどくせ』という人にしかなっていない。


 というわけでアイドルをします。


 しかしここで問題が発生する。


「男女比2:2のアイドルよりも、全員女性がいいな。その方が売れる」


 ここで行われるアイドル活動は前線で無意味な戦いを繰り返す兵士諸君への慰安であり、兵士に性別制限はないのだが実質的に男社会だ。

 だからアイドルは女性がいい。しかし勇者パーティは男女比が均等。


 勇者は統括プロデューサーになるのだが、死霊術師はどうしようもない。

 かといって勇者は死霊術師を『お前、アイドルにいらないから追放』とするつもりもなかった。


 勇者は世界観がコミック発売おまけ時空でおかしくならなくとも、素の状態で『この戦争は何者かの意図によって膠着状態にされているのでは?』と気付いている。

 彼はパーティメンバーでアイドルをやろうが最終的には魔王領に攻め込んで魔王を倒すことが自分の今後のためになると思っているので、重大な戦力である死霊術師を生きているあいだに追放する気はなかった。


 なのでどうにかしてアイドル活動中にも彼に給料を捻出せねばならない。

 かといって彼にはマネージャー業務もできないし営業活動もできない。社会性がないからだ。

 そして容姿もかわいい女の子ではない。もしもかわいい女の子であれば、この面倒くせぇ根暗コミュ症人格もセールスポイントにできるのだが……(かわいいは売れるので)。


 そこで勇者はダメもとで言ってみた。


「死霊術師……かわいい女の子に、なれないだろうか?」


 彼はちょっと悩んでから答えた。


「まあ、技術的には可能かな」

「可能なのか!?」

「技術的には」

「つまり、できるんだな?」

「いや、技術的に可能というだけで……」

「それは、『できない』っていうこと?」

「いや技術的には可能なんだってば」

「じゃあ、やってくれ!」

「ええ……まあ、わかったけどさ……」


 コミュ力の強い営業vsコミュ力の弱い技術屋vsダー○ライ。

 ──勝手に戦え──


 かくして死霊術師は女の子になった。

 この作品には憑依TS要素が含まれます。ご注意ください。

 女の子になった死霊術師の見た目はコミック2巻をご覧ください。



 アイドルトリオになった勇者パーティのレッスンは苛烈を極めた。

 レッスンのコーチには当年とって十一歳になられた女王陛下ランツァが名乗り出てくださった。なんでだよ。


 ランツァがかかわることになった事情としては、以下のようになる。


 まず『アイドルグループで~す』と普通に戦場に行っても受け入れられるわけがないので、誰か偉い人が慰問のためにこういう催しをしますよ、という告知が必要になった。つまり後ろ盾が必要だ。

 ところがアイドルグループというものを宮廷勤めの貴族たちに認めさせるのが難しい。

『アイドル? それは何をするのかね?』『まさか……この世界の人はアイドルを知らない?(知りません)(以下説明)』『つまり、歌って……踊って……なんだ』『ですから、人々にライブで笑顔を……』『(よくわからん)他を当たってくれたまえ』という展開になる。


 そこで勇者は脳内シミュレートの結果、名前だけは通っているが特に失うものもない傀儡女王ランツァに『アイドルのパトロンをやってみないか?』と提案したところ、ランツァはアイドルに目覚め、ロザリー、レイラ、リッチ(この世界線ではリッチではないが、便宜上そう表記する)は毎日歌と踊りのレッスンをさせられている。


 経緯を整理しても『なんで?』って感じだ。


「リッちゃん、表情がかたいわよ!」

「死体だからね」


「ロザリー! ダンスの最中に筋トレを取り入れないで!」

「礼拝ですので」


「レイラ! 踊りながらものを食べないの!」

「うるさいわね。暴力で解決するわよ」


 通常であればこのあたりで心が折れるのだが、ランツァは鋼のメンタルの持ち主であり、勇者クラスのコミュ力の持ち主でもあった。


 最初はアイドル活動にやる気がなかった三人だが、うまくのせられていくうちにだんだんと仕上がっていき、ライブ一週間前にはキレのあるダンスと素敵な笑顔、そして歌唱力を身につけた立派なアイドルになった。


「もう、あなたたちに教えることはありません。ここまでよくがんばりました」


 ランツァが涙ぐみながら言うのでなんとなく流れでみんな涙ぐんだ。毎日ダンスをすると心が綺麗になるのかもしれない。しよう、ダンス。


「あなたたちのファーストライブを現地で見ることができないのは残念だけれど……」女王ランツァは王城に軟禁されているのだ。「きっとうまくいくでしょう。人類(※女王の一人称)が保証します」


 かくしてレッスンを終え、三人と勇者Pは前線へと旅立っていく。


 このあとライブは大盛況で終わり、一週間ぐらいは人の魔も戦争をやめて平和に過ごしましたとさ。

 その後ライブの熱が冷めたのでまた殺し合いが始まって、本編ルートに合流します。

 めでたし、めでたし。

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捨てられて、リッチ #勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る 稲荷竜 @Ryu_Inari

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