平凡で冴えない中年の意地に魅せられる物語

カクヨムからの書籍化を待ちわびた一作。
所謂チートを手にして豹変し、粋がり、子供じみた言動で成功し続けるおっさんに何度失望しただろう。
本作はそれらとは一線を画し、みっともなく、泥臭く、そして誰よりも必至で格好いい大人の意地に魅せられる物語だ。

34歳独身サラリーマン。趣味はカードゲームとアイドル。日々の生活に疲れ果て、ただ生きるだけで精一杯な中年の無益な人生。TVの向こうで輝く才能溢れた少女たちと冴えない中年。カードゲームと一人の少年により、互いの世界は交差し、超常の戦いが繰り広げられる。

敵は理不尽、手にする力は超常なれど不便極まりないカードゲーム。そして諦めぬ魂。勝利への道のりは遠くか細く、ダイスの神には見放され、健康診断に引っかかる中年の体力では逃げられすらしない。それでもなお、彼は足掻き続ける。生き残ろうとする。這いつくばり、見下され、恥ずかしく、情けなく、それでもなおカードを一枚ドローする。まだゲーム《人生》は詰んでいないから。
毎日毎日『疲れた』とか『死にたい』と思いながらの人生でも、報われない事ばかりの人生でも、それでも自分の幸せは自分しか掴み取れないから。

これは決して華麗でも格好良くもない、平凡な中年の物語。泥臭くて、諦めが悪い不格好な物語。
だからこそ、這いつくばり戦う姿に引き込まれるのだろう。

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