兄と妹、姉と弟。対称的で対照的な二つの家族と、彼らを取り巻く友人たちが複雑に織りなす心模様を丁寧に描きあげた、ドラマティックな物語。
幼少時代の虐待と母親に降りかかった不幸。そのすべてを負って傷だらけになった心に翻弄される少女と、彼女を守ろうと必死に尽くす少年が、物語の主軸になっていきます。
優しく弱い楓と、優しく脆い瑠衣。
楓の傷はいまだ深く、同い年の瑠衣はそばで支える以外にすべを持たない。
曖昧で危ういその関係は、しかし止まらない時の流れに容赦なく浸食され、望む望まざるに関わらず変化を促されてゆくのです。
彼らより少し歳上である兄と姉も、傷の深さは変わりなく。
新たな人間関係、少しずつ進んでゆくそれぞれの想い、そして願いつつも遠すぎる希望。心惑い、手探りで道を探す彼らの心情と生き様はひどく真に迫っていて、読者の気持ちを物語の中へ連れ去っていくでしょう。
いまだ出口は見えず、それでも優しさと愛にあふれた彼女ら彼らがいつかは、穏やかな笑顔を取り戻せることを願いつつ。
繊細でリアリティにあふれる物語の行く末を、一緒に見届けてみませんか?
「生まれてきて、良かったんだろうか」
そう悩んだ事はないだろうか?
自己肯定感と言われる、人生を左右する大切な感情だ。
あらすじで躊躇いを感じた方も居るだろう。重い展開は多く、読みながらずしりと心に重たいものが伸し掛かる。それでもなお、先を読みたいと思える魅力がある。
一番感じるのは、心情や情景の描写がとても丁寧で、心惹かれる事だろう。まるで文章から彼女達の心の色が浮かぶ様で、重いテーマなのにするりと自分の心に入り込んでくる。共感し、見惚れ、感情移入してしまう。
物語は少女と少年の関係を中心に語られる。幼い頃の氷菓の思い出から、現在、そして未来へ。幼き頃の決意は変わらず、しかし二人の関係は少しずつ変わっていく。単純な恋愛で括られるものでは無いだろう。だが救いはあるとそう信じたい。
どうか幸せになりますように。
自分を認めれますように。
そう願いながら、彼女達の成長をただ見守りたい。