和歌山、熊野、2003年。ゲーム少女は山でレベルアップを重ねるのだ!

九州の某進学校で山岳部だった、という友達がいる。
課題が膨大な進学校ゆえ、体力勝負では勝てないが、
そのぶんは読図や天気図作成、行動計画書作成など、
データを使う分野で点数を稼いで上位に居たらしい。

友達からそんな話を聞いた直後に本作が公開された。
そりゃあ飛び付くよね、と。しかも2003年ですか。
作者さんは同世代でしょう。ゲーム事情が懐かしい。
パソコンやネットやケータイを巡る環境も懐かしい。

和歌山県の山々を舞台に青春する、山岳部女子4人。
主人公はゲーム少女の絵里。本気の登山は初めてだ。
スポ根チックに頑張りつつ、ゆるゆる要素もあって、
これアニメで見てみたいよなあ、と想像してしまう。

山の自然の美しさや、そこにまつわる伝説と歴史。
和歌山県のご当地小説だからこその魅力の数々が、
親しみやすい登場人物を通して語られ、描かれる。
彼女たちは大会でどんなドラマを見せてくれるのか。

そして「異伝」として収録されているのは、8年後。
2011年8月末に紀伊半島を襲った台風と水害のこと。
多くのかけがえのないものが喪われたそのときに、
絵里が感じたこと、起こした行動、出会った人々。

故郷、熊野の山々を愛する想いと山岳部の思い出が、
ユーモアや涙を交えた青春ドラマを形作っていく。
熱くて爽やかな少女たちの物語。
完結お疲れさまでした。

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