和歌山県神倉高校山岳部の絵里、みつき、優華、あきらの女子4人組が、登山のチーム戦「縦走競技」で全国大会を目指す。
ゲームオタクで自堕落な絵里が一念発起し、毎日重い荷物を背負って登下校したり、学校行事や休みの日まで特訓をこなしたり、生まれて初めて本気で努力する姿に応援したくなる。
絵里だけでなく他のメンバーも登山の知識を蓄えたり、キャンプ料理を研究したり、登山計画書を作ったり、チームで力を合わせてひとつの目標に向かう光景に青春っていいなと素直に思いました。
ユネスコの世界遺産に登録された熊野古道を始め、千穂ヶ峰、釈迦ガ岳、金剛山・大和葛城山と古来より修験道にゆかりのある名山を巡るトレイルランに歴史への思いを馳せる。
仲間とともに大自然で食べるキャンプ飯の美味しさ、疲れた身体に染み渡る温泉の心地よさ、真夜中に地面に寝っ転がって見る星空の美しさ。すべてが山でしか得られない宝物のような体験だ。
読めば絵里のように山頂で「やったぜべいびー!」と叫びたくなること間違いなし。
(「女子高生だけいればいい」特集/文=愛咲優詩)
行ったこともないのに、まるで自分が住んでいたかのような気分になる。
音が、声が、風が、風景が、頭の中に飛び込んでくる、そんな作品。
個人的に大変感情移入してしまった。自分も山岳部で大会に向け奮闘していた過去があったからだろうか。
自分も地元で、地元の山で暑い夏の日も寒い雪の残る日も山岳部として活動してきたことを思い出す。炎天下の中で歩荷させられ、雪解けの道を何キロも走り、温泉まで行かされ…。
オーバーヒートした体を木陰にうずめ、近くの神社の水道で頭から水をかぶったり、はたまた冷え切った体で足湯に飛び込んだり。
地元の山には何度も登り、県内の多くの山も登った、いや県内の山は知り尽くしている自信があった。
大会準備では先輩や同級生に罵倒され、二度と登ってやるものかと思ったこともある。
大会は一大イベントだ。大会準備は忙しすぎて一か月間、家にいる時間よりも山にいる時間のほうが多かったときもあった。
その代わりに、大会が終わった後の達成感は何物にもかえられないものがあった。
話が長くなってしまったが、青春の時に地元を味わい、地元の山に登るというのは本当に素晴らしいことだと思う。地元から離れてしまった今、この作品を見つけそんな忘れかけていた思い出に浸っている。
世界遺産にも登録された熊野古道を擁する和歌山県のとある高校を舞台に、「山岳競技」に挑む女の子達のお話です。
山登りに点数を付けて競うという山岳競技、いったい何を、どんな風に採点するのだろうと思って読み始めました。主人公たちの参加する「縦走競技」部門では、決められたコースの踏破に加え、パーティの統制・装備品・テント設営・料理・山に関する知識のペーパーテストに天気図の作成などなどを競うとの事です。
そんな縦走競技に、ゼロから挑戦する主人公たち。ひとつひとつの課題に、手探りながらも前向きに挑んでいく姿がとても好ましいです。ああ、部活との距離感ってこんな感じだったなあ、と何か懐かしさを覚えました。
作中で紹介される熊野の自然や歴史の紹介も楽しく、さらにはお話の時代設定(2003年?)当時のいろいろな話題もくすりとさせられます。
山や自然、そして、部活に頑張りすぎないけどやっぱり頑張る少女たちのお話が好きな方であれば、ぜひ。
九州の某進学校で山岳部だった、という友達がいる。
課題が膨大な進学校ゆえ、体力勝負では勝てないが、
そのぶんは読図や天気図作成、行動計画書作成など、
データを使う分野で点数を稼いで上位に居たらしい。
友達からそんな話を聞いた直後に本作が公開された。
そりゃあ飛び付くよね、と。しかも2003年ですか。
作者さんは同世代でしょう。ゲーム事情が懐かしい。
パソコンやネットやケータイを巡る環境も懐かしい。
和歌山県の山々を舞台に青春する、山岳部女子4人。
主人公はゲーム少女の絵里。本気の登山は初めてだ。
スポ根チックに頑張りつつ、ゆるゆる要素もあって、
これアニメで見てみたいよなあ、と想像してしまう。
山の自然の美しさや、そこにまつわる伝説と歴史。
和歌山県のご当地小説だからこその魅力の数々が、
親しみやすい登場人物を通して語られ、描かれる。
彼女たちは大会でどんなドラマを見せてくれるのか。
そして「異伝」として収録されているのは、8年後。
2011年8月末に紀伊半島を襲った台風と水害のこと。
多くのかけがえのないものが喪われたそのときに、
絵里が感じたこと、起こした行動、出会った人々。
故郷、熊野の山々を愛する想いと山岳部の思い出が、
ユーモアや涙を交えた青春ドラマを形作っていく。
熱くて爽やかな少女たちの物語。
完結お疲れさまでした。