まっさらな和紙に碧と藍の水彩で書かれた詩のような

独特のひらがなの使い方、擬音のやわらかさ、そして多用される連体止め、何もかもまるで詩で、読み終わってこれは感情をうたわぬ叙情詩だったのだと思います。
そこかしこに「よつ」の、そして「ひめさま」の想いの強さ、溢れんばかりの気持ちがほとばしっているのに、実は直接的な感情表現に通ずる形容詞は少ないという、芸術作品です。
文芸、ということばがありますが、この作品を読むと、文章はアートたりうるのだと思います。
触れる行為や求める感情は、同じシーンを他の方が書いたらひょっとしたら官能的な描写になるのかもしれませんが、「よつ」と「ひめさま」の間にあるものはきれいで、美しく、繊細で、上品で、この世界は完成されていて、さながら水彩画のごとき爽やかさとやわらかさを感じるのです。

そして最後まで読んでからタイトルに立ち返ると、「もういない」のはけして悲しいことではなく、ヘンゼルは羽化したことによって消えたのだという安堵。
ハッピーエンドでした。