忘れていた少女時代の感覚。日常のなかにある多彩な“幸せ”の時

「昭和の香り」のする小さな駅のある街で、元画家の先代マスターから譲られた喫茶店を営む、音大卒の主人公。老犬と散歩に出かけ、河原でサックスの練習に精を出し、コーヒーを淹れる春夏秋冬、流れていく歳月を描いた物語。

重要な登場人物として「サックス、教えてくれませんか?」と接近してくる中学生の少女がいるのですが、徐々に主人公との関係性が明かされ、安易な恋愛話に流れない距離感の変化が読ませます。

中年期に入った主人公と、中学1年生から3年になる時間のなかで成長していく少女。彼女がサックスに惹かれた理由。主人公に教えを乞うた意味。吹けるようになりたいと願った「ひこうき雲」、そして「スイートメモリーズ」。

ことさら声高に主張せず、何気なく綴られているようで、時々、ぎゅっと気持ちを掴まれる会話があり、ゆっくりじっくり読み進めたくなる。出会いがあれば、別れもある。それでも続いていく物語の日々を、「行きつけ」にして、ぜひ見守って下さい!


(「あなたに“刺さる”かもしれない物語!」4選/文=藤田香織)