追記 独壇場(二)

注:ラブラブバカップル、特にジェレミーの暴走は止まりません。引き続き注意報です。



***



「そろそろ真面目な話題に戻ってもよろしいですか? お二人の将来の夢、目標、計画等ありましたらお聞かせください」


「アナ、お前から話せ、俺は考えまとめ中だ」


「はい。そうですね、私は就職が人よりずっと遅かったので、まだまだ職場でも学ぶことが多いのです。魔術師としても教師としても未熟者です」


「それはご実家の事情で仕方ないことでしたわ」


「はい、私は教育者としての方が向いていると思うので立派な教師になれるように励みたいです。以前の私のような魔術師の卵たちに教えるのは楽しいですしね」


「お二人のお子さまたちも大きくなられたでしょう、そろそろ貴族学院生ですか?」


「長男が今年から貴族学院に通っています。子供たちは三人とも魔力は持って生まれなかったのですけれど、魔術科以外の生徒にも科目によっては教えることもあります。長男のギヨームは文官になると言っています。次男のアンリは父親のように騎士になると思いますわ。末っ子のミレイユは今のところはまだ何も目標はないみたいです」


「ミレイユは王宮楽士になるためにアナがピアノを教えている」


「それは分かりませんわよ。主人は彼女が王宮ピアノ楽士になることを望んでいますけれど、本人の素質と希望の進路にもよりますからね」


「ではルクレールさまの将来の計画や夢をお聞かせ下さい」


「そうだな、俺が騎士として王宮に上がった頃はもう今上陛下の御代で平和な時代を迎えていたんだよ。それは良いことなんだけどな、どうしても騎士団の面々は士気が下がって平和ボケしてしまうんだよ。俺自身、戦は経験したことないしな」


「そうですわね。もうかれこれ二十年以上小競り合いなど起こっておりませんわね。鼓腹撃壌こふくげきじょうの世の中になって、有難いことですわ」


「いざ有事の際に体も心もなまってしまっているという心配はある。毎日訓練していてもやっぱりなあ。もう少し現場の緊張感を若手に体験させないといけないとは日頃から思っているんだよな。国境警備隊への短期派遣をもっと頻繁にするとか、俺達、上の統率する側は武術や兵法だけでなく精神医学や心理学の知識を義務付けるとかな」


「思ってもみなかった真剣なご意見を引き出せましたわ」


「旦那さま、素敵です!」


「お前ら、俺のことただ剣を振り回してるだけの筋肉バカだと思っていたんだろーが!」


「そ、そんなこと決してございませんわよ」


「どーだか! それでだな、個人的な夢としてはなぁ、俺一度アナとニッキーに同時に奉仕されてみてぇんだよな。アナ、お前分身の術とかできねぇの?」


「は?」


「だ、旦那さま?」


「シャルボンも入れて三人と一匹で4Pでもいいぞ」


「それが夢でございますか……先程一瞬貴方さまのこと見直して株がぐんと上がったのに……はぁ、急降下です」


「分身の術なんてそんな魔術聞いたことございませんわ」


「まあな、お前忍者じゃねえもんな」


「ニンジャ? あっでも総裁のクロードさまに聞いてみます!」


「奥さま、それがもし可能だったらなさるのですか!?」


 イザベルは頭を抱えている。


「いや、聞くな……クロードの奴には知られたくねぇし」


「ではこっそり図書館で調べてみます!」


「何だか奥様の方が乗り気になっておられますが……」


「ぷれいによってはどうしても抵抗がある時もありますが、主人を悦ばせるのは私の務めですから!」


「改めて貴方がたの聞き役に私が選ばれた理由が分かりました。どんな話題になっても耐えられる強靭な精神力が必要ですわ……では、気を取り直して……お二人はどう呼び合っておいでですか?」


「私はアナ、お前ですね。時々意地悪なことを言われる時はアナ=ニコルさんと呼ばれていますね。婚約から仲直りまではアンタでした。仲直りの時にアナ=ニコル・ボルデュック嬢と呼ばれて改めて求婚された時には感動致しました」


「お前、良く覚えてんな」


「勿論ですわ、旦那さま」


「ニッキーは何と呼ばれていますか?」


「ニッキー、お前、ですね」


「俺はアナには旦那さまだな、怒られる時はジェレミー・ルクレール侯爵、ニッキーにはジェレミーさま、シャルボンにはニャーニャー」


「うふふ」


「アナはそれでも二人きりの時に甘えてジェレミーさまぁって呼んでくることもある」


 ニヤニヤしているジェレミーにアナは少々嫌な予感がし、警戒している。


「そんでもってこの人もニッキーもさ、稀に俺のことジェレミーって呼び捨てるんだよな、アノ時に無自覚で前後不覚でさ『ああ、ジェレミー……ワタシ、もう、〇〇ぅ!』」


「キャー! 〇X△★!!! 旦那さまのイジワルッ!」


「しょうがねぇな、この部分カットな」


「カットされるわけないでしょーが!」


 アナは羞恥で益々真っ赤になり、涙目になっている。


「……ラブラブで何よりですわ……ところで、騎士の方々が噂していますけれど、『アナたん♡』『ジェレたん♡』と呼び合ってはおられないのですね?」


「じぇれたん? いいえ」


「またそれか、誰だよそんなデタラメ吹聴してんのはよぉ!」


「何でもルクレールさまは威張り散らしているのに実は恐妻家で奥様にはデレデレということは有名ですわよ」


「絶対噂の出所突き止めてやっからな!」


「でも旦那さま、『ジェレたん♡』って可愛いですわね」


「十代のバカップルじゃねぇんだぞ、勘弁してくれよ」


「うふふ……」


 騎士仲間の間でも『アナたんジェレたん劇場』がちょっとしたブームになっているとまではイザベルも言及するのはやめておいた。


「この『奥様は変幻自在』は実は王国シリーズ中でも一、二を争う人気作でして、作者がこの座談会を書くにあたって集計を取ったところ、この座談会公開直前の時点で一話当たりの平均PV数が450でした。『開かぬ蕾に積もる雪』は186、『王子と私のせめぎ合い』は218と最近連載完結した話で比べると断トツです。単純には比較できませんが、フォロー者数、レビュー★数でも勝っていますね」


「まあこれも俺の人徳のお陰だ」


「『奥様』の主役はこの私です、光栄です」


「人徳の差というよりも変態度と正比例しているのではないのですか?」


「イザ、お前なぁ……」


「この座談会の聞き手を喜んで引き受けましたが、精神的に非常に疲れましたので、私も毒舌にならざるをえないと申しますか……」


「ま、俺は煮ても焼いても食えたもんじゃないあの文官に負けてなきゃいいんだよ」


「旦那さまはアントワーヌのこと、大層意識しておいでですからね」


「作者によると、貴方がたお二人はシリーズ作中、唯一座談会でお互い手を握り合ったり、見つめ合ったり、口付けたりしなかった夫婦だそうです。聞き手の私も仲の良さを見せつけられると言うよりも、変態の世界に引き込まれたと言うか……流石にもう疲労困憊です。そろそろお開きに致します。お二人共ありがとうございました」


「イザベルさん、かなり恥ずかしい思いもしましたが、楽しかったです。ありがとうございました」


「じゃあな、イザ」


 イザベルは二人を飲み屋の入り口まで送って行く。夫婦は軽口を叩きながら馬車に向かっている。


「旦那さま、今度私のことアナたん♡って呼んでみて下さい」


「やだね」


「そんなことおっしゃらないで、ジェレたぁん♡」


「ジェレたん言うな!」


「ふふふ」




     ――― 独壇場  完 ―――




***ひとこと***

大変失礼致しました。にもかかわらず、最後の最後まで読んで下さってありがとうございました。

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奥様は変幻自在 王国物語3 合間 妹子 @oyoyo45

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