あとがき
「純文学とライトノベルの違い」、お読み頂きありがとうございました。
同名の自主企画を見て、「これ、スレイマン様とイブラヒムで書きたい!」と思い、2時間くらいで書いたものです。自主企画終了後、もう少し整理するかもしれません。
『県知事様はライトノベルを書きたい』という小説の外伝になっているので、そちらもお読み頂けたら、と思います。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885021688
16世紀オスマン帝国において、「純文学」や「ライトノベル」という概念はありません。
そもそも「小説」という概念が近代ヨーロッパ的なのですが、本編中でも触れたペルシアの古典叙事詩や、『千一夜物語』の原型となる物語も既にあり、スレイマン様は『千一夜』を愛読していたという話も伝わっています。
原理主義的なムスリムの中には、一切の娯楽を否定する方もいますが、オスマン帝国は音楽も絵画も詩歌も物語も盛んです。スレイマン様はライトノベルではなく、詩と書道と工芸と園芸で有名な皇帝となります。アクセサリーを自作したり、チューリップを栽培したりします。なんか可愛い(笑)
作品中のスレイマン様の主張に関しては、他の作品同様、私の想像であり、イスラーム・ハナフィー学派(スンナ派四大学派の一つ、オスマン帝国国教)の公式見解ではないことを、念のためお断りしておきます。
「純文学とライトノベルの違い」を論じるという自主企画、殆どの方がエッセイで参加しておられたのですが、私は何でか小説にしてしまいました。ちょっとオスマン帝国欠乏症で死にそうだったので(笑)
私の結論からすると、純文学とライトノベルの違いは絶対的なものではないと思っています。
それこそ、「物語は二つの種類に分かれる。教師が読むことを推奨するものと、読むことを推奨しないもの」くらいのものだと思うのです。
この基準の一つには「古典」であるかどうかというのも入ってくると思います。
よく異世界転生ものはライトノベルとか、そういうの言われますが、最近話題の『仙境異聞』だって、江戸時代の異世界帰りの話だけど、あまり「ライトノベル」とは言われませんよね。私は正直言ってもいいと思うんです、「古典ライトノベル」って。通俗的な内容で、砕けた文体が使われている物語、例えば鎌倉時代の『我が身にたどる姫君』あたり、女帝と中宮の百合ラノベだと普通に思うんですけどね(笑)結局、時間による淘汰があり、残ったのは内容がライトであれヘビーであれ「古典」となり、「ライトノベル」とは呼ばれなくなるようです。
今、『千一夜』と『王書』が東洋文庫に注釈付きで仲良く並んでいますよ~。
線引きの曖昧さは、オスマン帝国や多くの国家で読まれた詩についても言えます。
現代だと詩は個人の内面を吐露する「芸術」のように見做されていますが、前近代においては、政治や権力との関わりが密接です。中国なら、官吏登用試験で詩が課されます。
オスマン帝国の場合、政権への礼賛も批判も詩(物語的な叙事詩も含む)で行われ、カフェで拡散され、世論を形成し、場合によっては皇帝や大宰相が廃位される軍事クーデターに結びつくこともあります。
今で言うと、Twitterでの発信に近い影響力を持っていると言えるでしょうか。現在、オスマン詩の優れたものは「芸術」と見做されていますし、政治的な発信であったはずの詩も「文学」とされています。それは、人間は政治的でもあり、情緒的でもあり、様々な面を持っているからで、くっきりとした線引きはできないからでしょう。その時の政治的な状況から書かれたものでありながら、他の時代、他の国の人にも響く普遍性を持ったものは「芸術」あるいは「文学」と呼ばれるのでしょう。
なので、今、著者が生きているようなレベルの話だと、どれがライトノベルでどれが純文学というのははっきり言えないだろうと思います。
スレイマン様(1494-1566年)の話なんですが、この時点で16歳、下っ端です。この後お父様がクーデター起こして皇帝になります。で、25歳で帝位に就き、いろいろ型破りな改革をやっていきます。よろしければ、スレイマン様シリーズ、読んで頂けたら嬉しいです(「スレイマン1世」タグつけてます)。
と書きましたが、皇帝時代のスレイマン様って殆ど書いていないことに気付きました(笑)
まだまだいろいろ書きたいものがあります……。
(補足 2018.4.15)
近況ノートに中世日本のライトノベルについて書きました。
純文学とライトノベルの違い 崩紫サロメ @salomiya
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