第3話
改札を抜けると、まず最初にこんもりした小さな山が見える。この小高い山は台地の縁にあって杉と楡の森で構成され、山頂には天文台と駅が、東の断崖には寺と墓地があるのだった。山頂に繋がる緑の中に、いろは坂とはいかないまでも、大蛇のような曲がりくねった一本坂が、かつその上を束になって電線が走り、その先に天文台の銀色のドームが先端をひょっこりつき出していた。清一郎は、坂道を一台の自動車が下りてきているのを見た。もう夏至は過ぎ、今日は半夏生のはずだが、今年の夏季の夕刻に、肌に張り付くような、むし暑さは未だやってこない、むしろ涼しいくらいだ、と彼は風を感じながら天文台までの短い方の階段を登ったところで他方、長い方の階段というのは、このくねくねした坂道を下っていくと突き当る国道沿いの百段階段というやつで、清一郎は晩になると頻繁にこちらを通用したが、今制服姿の彼は五分間ほど上って、南方に開けた展望台に着いた。
天文台は、駅からの明かりや騒音が観測の邪魔にならないように小さな森の中に上手に隠されていた。
そのような静閑な森の中に、整備された芝生と杉で作られた平行な展望台とおよそ四階建て分のドームを含む、白い飾り気の無い長方形の建物が天文台なのであった。夕陽は満遍なく、芝とドームと展望台をオレンジ色の光で包んで、また、展望台の備え付けの双眼鏡の近くに、ベンチに座って本を読む端正な顔立ちの女学生もその中にあった。この彼女こそ、清一郎が待たせた、駅員の妹である。
天文薄明 尨犬 @mukuinu
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