第2話

「ご乗車ありがとうございました、◯×天文台前、◯×天文台前、終点です。お降りの際は……云々。」

車掌は立ち上がって終点のアナウンスを告げ、車掌席の小窓からホームで到着を待っていた年若い駅員に手で合図を送った。駅員は帽子のつばに手をかけて、車掌に返す。

清一郎は学生鞄を手に持って、一両目の扉から出ると、その若い駅員に声をかけた。この駅員というのは幼少から清一郎らの兄貴分で、彼は名前を金森かなもり 一樹かずきといった。

「清一郎、うちのじゃじゃ馬をあまり逆撫でんでくれよ。鬼も盛りの十八娘と言うんだから。」

「少し遅れるって伝えたんだけど。」

清一郎の二条麦の穂のような眉が下がった。一樹は二度頷いて、

「まあ、あいつはさっき一本まえの電車で着いて、もう三十分は待ってる。最近は俺のことも、クソ兄貴呼ばわりで機嫌も悪かったかもしれんが、さ、走れはしれ。天文台に行ったからな。俺の代わりにご機嫌とりしといてくれよ。」

そう言うと、清一郎の背中を押しやって出口に促し、自分が今引き止めたことも彼の時間の勘定には入っていないようなのに、彼は呆れた。

だから、「この兄にして、あの妹ありってことだね。」と皮肉を言うと、ほくそ笑んで見せた。

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