砂漠と地中海の風に吹かれて……。

 今回読者諸兄にご紹介する作品は、最近ではめっきり見なくなった冒険モノだ。

 物語の舞台は紀元十世紀頃のエジプトから始まり、地中海の島コルス島を経て港湾都市ヴェネツィアに移っていく。

 ベースこそクトゥルー(クトゥルフ)神話だが全体としては冒険活劇の色合いが濃く、神話になじみのない読者諸兄にもオススメだ。


 物語の核は死霊秘法(ネクロノミコン)にまつわるもので、神話を齧っている読者諸兄は、勿論序盤から存分に神話要素を楽しめる。


 この作品の特徴は何と言っても紀元十世紀頃の世界の描写だ。

 当時の世界情勢やその土地の風土、街並みは勿論、市井の人々の風俗や慣習なども網羅して描写に説得力を与えている。

 私個人が特に感心したのは、港湾都市ヴェネツィアの街並みや貴族邸宅の詳細な間取り、当時の裁判の様子などだ。

 一朝一夕では描けない詳細な描写に、作者の豊かな知識を垣間見ることが出来るだろう。


 バトルも気合が入った筆致で飽きさせない。

 一応主人公は異能持ちではあるのだが使用に関して何かと制限が多く、異能に頼っての無双が出来ないのでハラハラドキドキのバトルを味わわせてくれる事請け合いだ。


 文体の方はしっかりと落ち着いており語彙不足、推敲不足を心配する事は無いだろう。

 又、堅いだけではなく洗練されていて非常に読み易い文章なので、タイトルや紹介文で敬遠していた諸兄にも是非読んで頂きたい。


 最後に私個人が最も惹かれたのは酒の描写である。

 また呑兵衛がうんぬんかんぬんと云われそうであるが……。

 兎に角登場する酒の種類がバラエティーに富んでおり、作者の確かな描写も相まってリアリティが高い。

 エールに葡萄酒に馬乳酒に黒エール、そしてクトゥルー(クトゥルフ)神話にはおなじみの蜂蜜酒も……。


 読者諸兄もお好みの酒(ソフトドリンクも可)を用意して、死霊秘法(ネクロノミコン)にまつわる馥郁たる物語を楽しんでみてはいかがだろうか?


 ……私? 勿論蜂蜜酒を呑み乍ら楽しませて頂きまひたよ~。

 ……そんなに呑んで大丈夫かって? あ、アタシは~れすね~こ、こう見えても、神話には一家言……ア、あるんれすから……。

 なに? く、く、クトゥルフとクトゥルーの違い? そ、ソレはれすね~…………むにゃむにゃ…………そう! イカとタコの違いれすよ~、分かりましたか! 

 あ、あんだって? どっちがイカでどっちがタコかって? そんなコトあ、アタシが知る訳ないでしょうよ~……。

 むにゃむにゃ……、……、……、……なんだ? ブンブン五月蠅いな。

 オ、オイラ夢でも見とんのけ? なんかデッカイ、と、鳥と羽虫の中間の様なモンが見えるんだけんども……。


 ま、いいか。