女の子ふたりのバディもの。ちょっと不思議で、かなりだめ人間。

 ひどいレビュー表題ですけど、いいところを説明するのが難しいんです。だってこのお話、好きなところやいいところについて語ろうとすると、すごく漠然とした説明になってしまう。

 とりあえず先に最大の魅力を、ものすごく雑に説明します。『安心して読めます』。それが本作の最大のいいところです。ひとつの物語としての完成度の高さ、安定感、隙のなさ。そういった部分。足りないところや余計な部分がなく、変に尖りすぎたりもしていなければ平坦だと感じるところもない。すごいんです。すごいのに褒めにくいから今ものすごく困っています。だって要は「高品質」と、その一言で終わってしまいます。こんなの漠然としすぎていて、ただ言うだけならどんな作品にだって言えちゃう感想じゃないですか。
 でも、そこなんです。自分がこの作者の作品を『作者買い』するのは、その安心感があるからこそなんです。

 ざっくり内容について触れます。霊能者の女の子のお話です。主人公の佳織さんには霊の存在を探知する能力があって、しかもそれは『におい』として知覚される。それも、いい匂いとかではなくて、くさい。ひどいにおい。そのくささの描写がもうひどくて、読んでて本当にくさくって、幽霊の居場所ひとつ特定するにも一苦労だしそれまで散々くさい思するしで、そこまでして頑張るのは他でもない、お金のためです。ソシャゲにはまってガチャにつぎ込むお金が足りないからです。もうだめです。全然だめ感すごい。へっぽこです。
 そこで生きてくるのが頼れる相棒、綿乃原先輩なのですけれど。確かに頼れるのですがでも、こう、なんかうさんくさい。怪しげな関西弁で喋る霊能アイドル巫女とかなんとか、メタ視点ではある意味そうおかしくもないのだけれど、でも作中の他の人物からしてみれば「設定盛りすぎ」的に思われているっぽい人。総じて、なんか違う。例えばこう、恐ろしい悪霊をスパッと除霊してみせる、そういうヒーロ的な霊能者とはいろいろかけ離れた霊能力。

 大丈夫なのかこれ感溢れるコンビの、いやだめだろこれ感しかないへっぽこ珍道中。そういうお話です。少なくとも自分にとっては、あるいは導入はそのはずです。
 個人的にはこの「だめ」感が大好きなのですが、でも決して「だめ」すぎず、といって「だめ」がただの飾りなわけでもない。ちゃんと魅力や面白みとして作用する、最適なところをついてくるこのバランス感。すごく丁寧に、気を使って組み立てられているんです。
 そしてこのバランス感とか丁寧な組み立てが、全体のあらゆる部分に作用している。しっかりストーリーがあって、それが過不足なく流れて、きっちりお話としてまとまっている。だから面白い。なんだろう、「間違いがない」という感覚。なんだかまた曖昧になってきましたけれど。

 なんというか、もう、読んでみてください。もう何をどう言っても漠然としてしまうので。紹介文なりタグなりレビューなりを見て、好みだな、気になるな、と感じた人であれば、まず満足できると思います。ちゃんと期待しているであろうものが来てくれますし、想定以上であっても以下であることはないはずです。このレビューを書いている段階ではまだ連載中なのですが、自分はもう安心しきって読んでいます。
 ストーリーと、それのもたらすカタルシス。そこに忠実な、かつ丁寧に書き綴られた、素直な小説の面白さ。そういうものを感じたい人には、是非ともお勧めしたい一作です。