霊を視認することはできないがぶっ叩くことはできる主人公・佳織と、霊は見えるが除霊のできない相棒・綿乃原先輩とのコンビが心霊スポットの「あと始末」をしていく……という筋書きのオカルト風味の現代小説。
読んでいて感じるのはとにかく「堅い」ということ。
作風が、ではありません。作風はむしろ日常モノにも近いゆるさがある。
ここで言う「堅い」というのは悪い意味ではなくて、キャラクター設定や文章力、構成力といった、作品の背後に見え隠れする書き手の筆力の高さが窺えるという話なのです。ド安定と言い換えてもいい。
除霊のアルバイトを通して変わってゆく二人の距離にニヤニヤしたり、主人公の私生活のへっぽこさに親近感を覚えたり、そんな主人公の幽霊の感じ方が「くさい」であることに妙なおかしみを見出したりしながら、続くエピソードを待たせていただきます。
一読して真っ先に抱いた印象は、何やら懐かしいテイストがする、というものだった。何だろう、90年代的オカルトモノの香りとでも言うべきか、霊感探偵とアシスタントという感じの設定や、随所に出てくるガッチリと土台が組まれた心霊設定など、そういうもの全てがノスタルジックな香りを放っていて、まずそこに感動を覚える。
別に古くさいと言いたいわけではなく、むしろそういった懐かしさをベースとしながらも、現代的なエッセンスで違和感なく現代物として読ませているのだから、その辺は上手いと唸るしかない。
キャラ作りがとても丁寧で好感が持てる。貧乏暇無しと言わんばかりにこき使われる主人公も、元を正せば自業自得であり、そういう色々抜けているキャラに与えられた霊能が「霊を嗅ぐと臭い」というのは何とも腑に落ちまくって心地よい。先輩も色々とベッタベタだけど、もうそれは非の打ち所のない様式美である。
話の進行スタイルは、数話完結的な案配で今後も続いていきそうな、読み手的にも展開が追いやすい新設設計。まあ、先のことは分からないけれども。雰囲気としては、今後もちょいちょい依頼人が来ては事件を裁いて、その間に同業者とかそういうキャラクターが段階的に足されて人間関係に厚みが出来ていくとか、そういう王道的ながらも安心の展開が期待できるような気がする。そこは裏切られるかも分からないけれど。
とにかく、今読める2話がまさに導入として完璧なので、続編が待ち遠しいのである。
ひどいレビュー表題ですけど、いいところを説明するのが難しいんです。だってこのお話、好きなところやいいところについて語ろうとすると、すごく漠然とした説明になってしまう。
とりあえず先に最大の魅力を、ものすごく雑に説明します。『安心して読めます』。それが本作の最大のいいところです。ひとつの物語としての完成度の高さ、安定感、隙のなさ。そういった部分。足りないところや余計な部分がなく、変に尖りすぎたりもしていなければ平坦だと感じるところもない。すごいんです。すごいのに褒めにくいから今ものすごく困っています。だって要は「高品質」と、その一言で終わってしまいます。こんなの漠然としすぎていて、ただ言うだけならどんな作品にだって言えちゃう感想じゃないですか。
でも、そこなんです。自分がこの作者の作品を『作者買い』するのは、その安心感があるからこそなんです。
ざっくり内容について触れます。霊能者の女の子のお話です。主人公の佳織さんには霊の存在を探知する能力があって、しかもそれは『におい』として知覚される。それも、いい匂いとかではなくて、くさい。ひどいにおい。そのくささの描写がもうひどくて、読んでて本当にくさくって、幽霊の居場所ひとつ特定するにも一苦労だしそれまで散々くさい思するしで、そこまでして頑張るのは他でもない、お金のためです。ソシャゲにはまってガチャにつぎ込むお金が足りないからです。もうだめです。全然だめ感すごい。へっぽこです。
そこで生きてくるのが頼れる相棒、綿乃原先輩なのですけれど。確かに頼れるのですがでも、こう、なんかうさんくさい。怪しげな関西弁で喋る霊能アイドル巫女とかなんとか、メタ視点ではある意味そうおかしくもないのだけれど、でも作中の他の人物からしてみれば「設定盛りすぎ」的に思われているっぽい人。総じて、なんか違う。例えばこう、恐ろしい悪霊をスパッと除霊してみせる、そういうヒーロ的な霊能者とはいろいろかけ離れた霊能力。
大丈夫なのかこれ感溢れるコンビの、いやだめだろこれ感しかないへっぽこ珍道中。そういうお話です。少なくとも自分にとっては、あるいは導入はそのはずです。
個人的にはこの「だめ」感が大好きなのですが、でも決して「だめ」すぎず、といって「だめ」がただの飾りなわけでもない。ちゃんと魅力や面白みとして作用する、最適なところをついてくるこのバランス感。すごく丁寧に、気を使って組み立てられているんです。
そしてこのバランス感とか丁寧な組み立てが、全体のあらゆる部分に作用している。しっかりストーリーがあって、それが過不足なく流れて、きっちりお話としてまとまっている。だから面白い。なんだろう、「間違いがない」という感覚。なんだかまた曖昧になってきましたけれど。
なんというか、もう、読んでみてください。もう何をどう言っても漠然としてしまうので。紹介文なりタグなりレビューなりを見て、好みだな、気になるな、と感じた人であれば、まず満足できると思います。ちゃんと期待しているであろうものが来てくれますし、想定以上であっても以下であることはないはずです。このレビューを書いている段階ではまだ連載中なのですが、自分はもう安心しきって読んでいます。
ストーリーと、それのもたらすカタルシス。そこに忠実な、かつ丁寧に書き綴られた、素直な小説の面白さ。そういうものを感じたい人には、是非ともお勧めしたい一作です。