50:ケッコン#さいごのおはなし
さて、俺ことP.N.『
精神疾患をもつ水縹さんは2018年02月、甥っ子の誕生に基づき婚活をすることを決めた。そこからとら婚さんの助言のもと、婚活アプリの使用を開始し知り合ったのが彼女氏。
初めてのデートは5月……春風も和やかな渋谷でのことであった。忘れもしない『お茶して解散のはずがガチデート』事件である。
その後も6月、7月とデートを重ねて結婚の意志を固めあった。
良好な関係を築きつつお互いの両親に挨拶したのが8月9月。
さらに10月には彼女氏の引っ越しが完了し、今現在は同棲を開始している。
式や家族の顔合わせはまだ先だけれど、予定はてんこ盛りだ。
そしてこのエッセイが投稿されるこの日……彼女氏の姓は俺の
思えば人生で一番長い9ヶ月であった。
然れど人生で一番短い9ヶ月でもあった。
32年で彼女が出来るとも、結婚が出来るとも思っては居なかった。だが今日、俺の隣には妻となる人が居てくれている。
諸君。敬虔なる人生を歩む諸君。
人は結婚を墓場と称する者が居る。
それはある意味で正しく、ある意味で間違っている。
たぶん、墓場とした人は相手に恋をしたまま結婚してしまったのだと思う。もし愛した末に結婚を選んだのであれば、その性別がどうあれ幸福のうちにあるだろう。
あるいは、愛が普遍であると信じてそのままで居てしまったのだと思う。愛は固定したものではない。ろうそくのように揺らめき、簡単なことで消えてしまう。だから愛とは常に努力に寄り添い、つながりを求め続けなければ灯ることはない。
絶対などない。永遠などもっとありえない。神に誓ってこれは本当だ。
だから我々がするべきは永遠の努力だ。絶対の思いやりだ。誰かがそばにいたとして、その人は自分ではなく、しかして最も心の距離が近い人。だから寄り添うべく歩いていかねばならない。足を止めた先にあるのが、きっと墓場なのだとおもう。
諸君。結婚が遠いものだと信じてやまない諸君。
人を愛するという事は素晴らしいことだ。
もちろん嫌われるのを恐れて前に進めないのは十分に分かる。だがそれ以上に愛することはとても尊い。別に恋愛宗教に入れということじゃあない。人を愛するという事は、自分の心に問いかけることでも有るのだ。
諸君、あなたは自分を愛しているだろうか。
水縹という男は過剰なほどに自分が嫌いであった。それは幼い頃のいじめに始まり、上手く人に溶け込めないディスコミュニケーション性に伴い、強烈な自己嫌悪として心を強固に縛り付けていた。
俺は鏡を見ない。いや、見ることが出来なかった。鏡は己を映し出す……見てしまったのなら、現実に自分が居るということを否応なく突きつけられるから。
俺は自分が嫌いであった。だから己ごと世界を幻想と位置づけ、もう一つの視界を以て空想の海に漂っていたのだ。だから俺は鏡が嫌いだった。自分が大嫌いだったから。存在そのものが大嫌いだったから。
でも彼女はそんな俺を好きだと言ってくれた。愛していると云ってくれた。
俺は、嬉しかった。言葉は上辺だけだと断じて、何も見ようとしていなかった俺は、彼女という鏡を通して己の姿を垣間見た。俺は彼女が好きだ。愛している。だからその気持に嘘を付きたくなかった。俺は己の内側をじっくりと観察し、心を見直し、1つずつ凝りを砕いて、もつれ合いを解いていった。
ふと気がつくと、ちゃんと鏡で自分の顔を見られる今があった。隣には彼女が居いて、鏡の向こうも同じように隣り合う2人の姿があった。2人は共に笑顔で寄り添っている。
鏡に写った俺は全くもって普通で、いつか見たよりちょっとだけ老けていて、相変わらず飄々として、泰然としつつ、とてもぽやっとしたおじさんである。
なんだ、なんてことない事だ。俺は彼女のおかげで、嫌いな自分が好きになっていることに気づいた。それは、些細なことだけれど、とても凄いことだと思った。
この素晴らしい偉業を成し遂げた彼女に、俺は生涯敬うことを止めないだろう。
諸君。既に人生の伴侶となる尊い人を得ている諸君。
あなたはちゃんと歩めているだろうか。
最も心の近い他人と、寄り添って進めているだろうか。
少し心の距離が遠くなったと思うなら、もう一度己と向き合って欲しい。
きっとするべきことが見えるはずだ。
もし共に歩けていたなら、せっかくだからお祝いをしよう。
なんでもないけど良い日だろう? ケーキを買ってを分け合うのもいいと思う。
いやいや家族が居るというなら、全員を抱きしめてあげよう。
人は思った以上に孤独だから、嬉しいことは体でちゃんと表現しよう。
諸君。諸君。諸君。
様々な事情を持ち、様々な思想を持つ諸君。
俺は自身をわりと駄目な奴だとおもっている。けれど見直すために頑張りたいと思い、そんな俺を好いてくれる人を見つけることが出来た。
こんな俺でもともに歩む人を見つけることが出来たのだ。
だから歩みだすことを恐れないで欲しい。
足を止め続けることにこそ恐れを抱いて欲しい。
時折後ろを見返して、前に前に進む努力をして欲しい。
俺は、俺達はこれから未知を開拓していかなければならない。
だが決して怖くはないのだ。
共に歩もうと決めた人と、歩調を合わせて、前に進もうと笑い、会うことができたから。
このエッセイはそんな男が、幸福を手にするまでの物語だった。
これからは佳い人生を送るために、頑張り続ける2人の物語が始まる。
故にこう言わねばならない。
俺ことP.N.『
ではコンゴトモヨロシク。俺は、幸せになったよ。
コンカツ!~実録ヲタ婚活のすべて~ 水縹F42 @Mihanada_F-42
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