不幸のザクースカ


「うわあ!!」

 ……最悪の目覚め。どうして快眠は私を避けていくのかしら? そういえば、ランとお姉さまが大変なことになっていたわね。

「ラン、ラーン!」

 そうして呼鈴を鳴らせば、お手伝いが駆けつけてくれる、我ながら、境遇に恵まれたものだわ……。

 さて、これが現実ならば、もう来るはずよ。

「お待たせいたしました。ご用件は何にございましょう?」

「あら、ほんと、あなたって、すぐにそうかしこまるのね。入ってからずっとその調子だけど、疲れないの?」

「慣れているので。ですが、貴女様がいまより気さくなほうが良いとおっしゃるのなら、ご要望にお応えしましょう」

「そうしてほしいわ」

 自分が女王様のように崇められるのも悪い気はしないけれど……、その後ことを考えても、やっぱりもう少し友達気分のほうが良いわね。

「そうそう、でね、一つ確認したいことがあるのよ。そのためにあなたを呼んだのだから。」

「そうですか」

「あなた、昨日の夜に頭爆発してなかった?」

「はい?」

「だから、あなたの頭――」

「いえ、その、言葉はきちんと伝わっていたのですが、あまりに奇抜な質問をするので」

「なら質問に答えてちょうだい」

「はあ……。まあ、そんなことはありませんでしたけれども」

 ふう、よかった。やっぱりあれは夢だったのね。タチの悪い……。そうとわかればもう安心。早速朝食の支度をしてもらいましょうか。

「じゃ、朝食を」


 今朝の朝食は、目玉焼きにベーコントースト、それから牛乳にポタージュスープ。うん。まさに、ザ・朝食ね。それでも私が不満にならないのは、献立は一般的でも材料がいずれも高級品だから。改めて認識すれば、より一層おいしくなるわね。 

「美味しいわ。朝からこんなに美味なものに出会えて、幸せ……」

 まあ、こんなにも大きな食卓に私一人だけしかいないのも寂しいものだけれど。

「お姉様は、もう食べたのかしら? それともまだ寝ているの?」

「はい、フラール様はもうすでに食べ終えています」

 明日からは少し早く起きようかしら。別に三十分や一時間程度なら、何の苦もないわ。

「美味しかったわ。さすがの腕前ね」

 

 

  今日はやっぱり館の予算案を済ませてしまおうかしら。昨日夜更かしした割には、意外と元気だものね。

「……おや、あの床のシミは、何かしら?」

 黒くて、まるで血痕のような形状をしているわ……。近づいてみても、正体はわからない。どうしてこんなものがあるのかしら? ランが拭き残しなんてするかしら? いや、というかそもそも、誰が、どうやって作ったのかしら。

「うわ! 何?」

 そんなことを思っていると、いきなりシミのあった部分から、食器棚が現れて……。ああ、一枚一枚落ちて割れていくわ。この感じ、どこかで見たような……。

「い、痛い! なに……よこれ」

 突然、頭の内部に異物が挿入されたような痛み。頭蓋に穴を開けられて何かをいれられるのではなく、脳の中に急に何かが発生したような、そんな苦痛。

 だんだんとそれが強くなっていって、吐き気を催すものになる。いつしかもう自分は立っていない。膝から崩れ、頭を抱えた手が地に付いたところで、そう気づく。

「ら、ラン! お姉さま! た、助けて……!」

 自分の声が頭に反響し、もっと痛みは増していく。次は、歯車が頭の中をぐちゃぐちゃにかき回していく。そのまま赤黒い、どろどろとしたモノが飛び散って――ああ、そうか。これこそが、床のシミだったんだ。


 そして力尽き、意識を無くす……。

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