頭部爆裂注意報
இ館には局所的な脳の雨が降るでしょう
彼女は大きな食卓の上座に座っていた。朝から何も口にしていないことによる空腹感は、胃を締め上げ、唾液腺を刺激する。フォークとナイフをそれぞれ手に持ち、食事の準備は万端。あとは尋常に食すのみ。
……だが、館の主はいつまでたっても運ばれることの無い食事に不満を覚え、ついに厨房へと赴いた。自分が食事の時間に立って移動するのは何年ぶりなのだろう、そんなことを真面目に思い出そうと試みながら。
「ちょっといいかしら、ラン。いくら何でも料理が出来上がるのが遅すぎるわ」
「あら、ミリ様、申し訳ございません。ですが――お皿の数がまだ数え切れていなくて……」
詫びているにもかかわらず、メイドは笑みを湛えて見つめ返してくる。不可解な状況に、ミリはこう返すのだ。「何ですって?」
「ですから、食事をお出しするにあたって必要となる食器が、いくつ必要になるのかわからないのですよ」
気がつけば、メイドの足元に数十枚の皿が置かれていた。ランと呼ばれた彼女はそれらを一枚一枚数えようとする。
「一枚、二枚。ええと、これは確かお肉料理に使うお皿。そして」
その行為を不審に思ったミリは、皿を彼女の手からひったくった。だがそれ以上のことが出来なかった。これからどうしろというのだ。食器を割ればいいのか。
「ああ! 困ります。また一から数えなおさないと……。一枚、二枚、三枚」
「ねえ、ラン、聞いて! 今のあなたはおかしいわ!」
「ラ、ラン!? そうでした。ランが一枚、二枚……、あれ、違うわ。えーと、もう! わからない!」
ばぁん。
メイドの頭部は爆発した。
「ひいぃぃぃ!」
腰を抜かす主人を怪訝そうに見つめる顔無しメイド。もちろん表情が読めないので、本当に怪しんでいるのかはわからない。だが両手を使ったその仕草から考えるにおそらく間違えは無いだろう。ただ、恐れをなしてその場からすぐに退場したミリには何も関係がないことだが。
「お、お姉様! 大変! ラ、ランが……」
常に前傾姿勢を保ち、さらに口をパクパクさせながら、姉の部屋へと押し入った。ミリは姉の姿を見て安堵し、また姉は非常に可笑しそうであった。
「ふふっ、ミリがそうやって怖がるの、いつぶりかしら?」
「そんなことはどうでもいいのよ! ランの頭が……」
「言わなくてもわかるわ。こんな感じに」
彼女の姉は、その言葉をきっかけにして頭を爆発させた。
脳と頭蓋骨が四方に飛び散り、当たり前だがミリにもぶつかった。あまりの異常さに言葉も出ない。頬にくっついた姉の脳みそを床に落とすと、ミリは言う。
「こ、こんなの、何かの間違い……。きっとそう。いつものイタズラ? 趣味の悪い……」
「そんなことないわ。ほら、その証拠に――ミリ、何だか頭がぼんやりしてきてない?」
言われてみれば。彼女はハッとして、左右から頭を押さえた……、はずだった。かわいそうなミリはその場で泣き叫んだ。とは言え、それは右の掌と左の掌が何にも触れずにくっついたことが何を意味するかようやく理解した時である。天変地異が起ころうと、もう彼女が涙を流すことは不可能で、悲しみを表現することすら出来ないのだ……。
「うわあ!!」
朝が来た。
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