第30話 かけがえのない弟、優しい兄


 みのりは新羅と向き合いながら、震える体で必死に己を奮い立たせた。VIPルームの外には他の客の相手をしている棗がいて、中の二人に気が気でない。


「俺と交渉がしたい? ふっ、何を言い出すかと思えば、お前は契約上、俺とは主従関係のはずだろう。そんなお前が、主である俺と一体何の交渉がしたいんだ?」


 卑しく笑う金瞳の前で胸に寄せる手には、恋人である雅を模った人形が握られている。それに支えられるように、みのりは大きく息を吸った。真っ直ぐに新羅を見つめる。


「お願いです。『ほおづキッチン!』を潰そうとしないでください。ご兄弟と、私の『宝物』を奪わないでください」


「宝物……? フン、あいつらが何者か悟ったか?」


「いえ。雅さん自ら教えてくださいました。あの方達は鬼で、貴方方が桃太郎一家だということを。そして千年に渡って、死闘を繰り返してきたことを」


「フン、長男坊自らお前に正体を明かすとはな。それで今猶あいつらの下にいるお前も相当変わり者だな。あいつら極悪非道の鬼共に喰われたくなけりゃあ、さっさと俺の離れに移り住め」


「いえ、私があの方達に食べられるようなことはありません。あの方達は人間を愛しています。奪うよりも、守りたい気持ちの方が強いと仰いましたから」


「そう言ってあいつらが守れたモンなんて何もねえよ? 千年前も、その後の時代も、あいつらが俺に勝てた例はねえからな。今代でもあいつら鬼は桃太郎一家に敗北し、店も命もお前も、すべて俺に奪われる運命なんだよ。だからお前も、いつまでもあいつらの傍にいるな。鬼の愛情などまやかしに過ぎねえんだ。これ以上深入りすれば、お前が辛くなるだけだぞ」


「それは、春姫様へのお言葉ですか?」


「何だと……?」

 ぴくりと新羅の眉間が動いた。


「千年前、雅さんの『宝物』だった春姫様に、私は似ているのでしょう? 私が春姫様の魂を受け継いでいるのかなんて分かりません。ですが、貴方に対する嫌悪感は、今も春姫様の想いとしてここに残っていると思います」


 みのりは胸に寄せた手を握り締め、はっきりと言った。新羅がじっとみのりを見つめる。「フン」と鼻で笑った。


「嫌悪感……そうだろうなぁ。あの姫に恥辱の限りを尽くしたのは俺だからなぁ。……お前も姫同様、今すぐかせてやろうか?」


 卑しく笑う新羅に、みのりが雅の人形をぎゅっと握る。


「それで私と交渉して頂けるならば、いくらでも貴方の言うことを聞きます」


「ふっ。今代では肝が据わっているじゃねえか。良いだろう、お前が離れ以外でも俺の忠実な僕になるって約束すりゃあ、あいつらの宝を奪わないでいてやるよ。ついでに次男坊の件も、丸く収めてやる」


「交渉成立ですか?」


「ああ。だがその証に、お前にはやるべきことがあるだろう? 分かるな? ……ほら、忠実な僕として、俺を満足させてみろ。そのつもりでサマ付けして、俺を煽ってたんだろうが」


 新羅の要求に思わず息を呑んだ。それでも後戻りなど出来ず、自分が決めた覚悟を新羅の前で見せる。薄暗いVIPルームを一歩、二歩と進み、みのりはソファに座る新羅の股の間に座った。泣きそうになるのを必死に堪え、そこから恥辱に笑う新羅を見上げる。


「ほら、俺はお前の何だ? その口で言ってみろ」


「……しん、ら、さまは、わたし、の……」


 恥ずかしさに耐え兼ねるみのりに、新羅の加虐心が煽られる。愛する女を服従させられる悦びに口元を緩ませ、新羅がみのりの小さな唇に触れた。


「ほら、早く言え」

「……っ」

「言えないのか? 仕方ねえなぁ」


 顔を真っ赤にして目を反らすみのりの耳元で、新羅が重低音の声で囁く。


「俺は、お前のご主人様だろう?」


「ひゃっ……」


 肩がびくんと跳ねたみのりに、「ふっ」と新羅が上体を元に戻した。


「ほら、しっかりと俺の目を見て言えよ。新羅様は私のご主人様ですって言ってみろ」

「ふえ……」

 人形を握り締めて、みのりが新羅を見上げる。


「……しんらさまは、わたしの、ごしゅじんさま、です……」


「ふっ、イイじゃねえか。その調子で俺を満足させろ。お前がちゃんと交渉の証を見せられたら、お前の望みは何でも聞いてやる。あの店も兄弟の命も奪わないでいてやるよ。分かるか? お前が身も心もすべて俺に捧げるのなら、今代ではあいつら鬼共を殺さないでいてやるんだ。それがお前の望みだろう? 姫」

 

 ぎゅっとみのりは口を噤んだ。そうして人形を握り締めた手が新羅の下半身へと伸びていく。溢れる涙を必死に抑えて、ごめんなさいと心中で雅に謝った、その瞬間――。


 ガシャン――とVIPルームのガラス張りの壁が割れた。そこに、金棒を片手に赤瞳で睨む雅の姿があった。


「雅さんっ……」


「長男ナン! 姫様っ……」


 棗も新羅の股の間に座るみのりに、ぎゅっと拳を握り締めた。金棒を肩に担ぎながら雅がVIPルームへと進んでいく。


「ふっ、邪魔すんじゃねえよ。今からご奉仕タイムなんだよ」


 卑下して笑う新羅に、すっと金棒が振り上げられる。狂気のままに瞳孔が開いた雅が、余裕に笑う新羅の顔目掛けて金棒を振り翳した。


「大将っ……!」


「ダメですっ、雅さんっ……!」


 みのりの声にぴくりと反応し、金棒が新羅の頬擦れ擦れで止まった。不敵に笑う新羅が雅を見上げたまま、言った。


「どうした? ヤれよ? 桃太郎を殺せる絶好の機会だろう?」


「……誰が君のような男を殺すか」


「はっ、何だ、恋人の手前、殺人犯にはなりたくねえってか? そうだよなぁ、この時代じゃ法律がすべてだもんなぁ。人間も鬼も、人を殺せば即刑務所行きだ。斬って捨てられた頃に比べりゃ、互いにヤりにくい時代だよなぁ?」


「何を言ってるの? ああ、そうか。君はまだ分からないんだね」


 そう言って雅が嘲笑を浮かべた。


「僕は君を殺さないんじゃない。君が僕に殺されるだけの価値がないってことに、君はまだ気づいてもいないんだね」


「なんだと……?」


「君は自分が何者か忘れちゃったの? なら教えてあげようか。君は、神と人間の相の子。どちらにも相容れぬ‟半端者”じゃないか。そんな‟半端者”を、僕のような高貴な鬼が殺すと思う? ねえ、千年経っても分からない? 今も昔も、僕は君なんて眼中にないんだよ」


 卑下するように見下ろす雅に、ぐっと新羅が顔を顰めた。そんな二人を呆然と見ていたみのりを雅が抱き抱えた。


「雅さん……」


 雅が外へと歩いていく。


「彼女が何を言ったかは知らないけど、君とのことは全部なかったことにしてもらうよ? 店を潰したければ潰せば良い。慶をアイドルとして酷使したけりゃすれば良いよ。だけど……」


 飛び散るガラスの破片の上で雅が振り返った。


「今度僕のみのりちゃんに手を出したら、この時代ごと君を消し去るから。もう二度と、君達が復活出来ないようにね」

 

 憤怒の赤瞳が、顔を顰める金瞳に尋常ならぬ殺気を置いて出て行った。


「大将……!」


 ソファに座る新羅に棗が駆け寄る。「ふっ」と新羅は笑い、粉々に割れたガラスの壁を見た。


「敗北しか味わったことがねえ鬼がよくあそこまで言えたモンだ。まあ良い、これで大義名分は出来た。今代の鬼退治でも俺こそが正義だと言う、大義がな」

 

 愉快そうに笑う新羅の口元に、棗は反感の意を胸に、そっと目を背けた。


「――みのり! 今までどこに……」


 自宅へと帰って来たみのりは雅に抱き抱えられながら、足早に二階へと連れていかれた。


「ああー……雅くん、相当怒ってるね」


 階段の下からミカドと兄弟は、事の重大さに溜息を吐いた。

 

 二階に上がった雅は階段の上に「立ち入り禁止」の看板を置き、弟達が二階に上がって来ないよう忠告した。奥のみのりの部屋へと入り、そのままベッドに二人で雪崩込んだ。


「ひゃっ! 雅、さん……?」

「ああもう、イライラする!」

「ほえっ!? す、すみませんでしたっ」


 雅は半泣き状態であたふたするみのりの手を取ると、ぎゅっとその体を抱き締めた。


「僕の人形をお守りに彼の所に行くなんてそんな無茶、笑って許してあげられる程、僕は優しくなんてないよ?」


「ふえっ……ごめんなさいっ……」

 真剣な表情で怒る雅に、みのりは涙が溢れてきた。


「うん……。もうあんな無茶したらダメだよ」

 

 ようやく優しい声と顔つきに戻り、みのりが雅の胸で泣きじゃくる。雅は自分を模った人形を机のみのり人形の隣に置くと、もう一度その体に覆い被さった。


「君は僕の恋人なんだから、僕以外の男にご奉仕なんてしちゃダメだよ。分かったかな? みのりちゃん」


「は、はい。みのりは、みやびさんだけの、ものです……」


「うん。じゃあ、いっぱい愛し合おうね。今日はいっぱい声出して良いよ。彼らも空気読んでくれるはずだから」


「ふえ……みやびさん」

 

 二人が口づけを交わす中、リビングでは……。


「はあ。ったく、しょーがねーな。今夜は店で食うか。おいオメーら。ミカディの作ったモン全部、店に運べ」


「はああ。みのりぃ、無垢なお前はもういないのか……」


「ずりぃんだよ、雅兄は!」


「まあまあ、あの展開じゃー、こうなるって分かってるんだし、僕らは空気読んでお兄ちゃん達の愛をそっと見守ってあげようよ。それが弟の役目ってものだよ?」


「オメーは弟じゃねーだろ」


「ヤだなぁ、溌くん。僕、千年も君のお姉ちゃんと愛し合ってるんだよ? お父上方から子供はまだかって催促されてるくらいなんだから、僕もれっきとした頬月家の人間でしょ? だから僕は雅くんの弟で、君達のお兄ちゃんなんだよ」


「っち。竹取物語なら、永遠にかぐや姫と帝は愛し合えないはずなのにな……」


「そんなことないよ。だって帝はかぐや姫から不老不死の秘薬を貰ったんだよ? その秘薬で僕は不老不死になったんだもん。だから僕は永遠に彼女を愛せるんだよ。たとえ鬼である彼女が、いつか死を迎えようともね」


「ミカド……」


「と言っても、まだまだ彼女は長生きするけどね。あの調子じゃ、あと一万年は生きるでしょ? 鬼の寿命はそれくらい長いんだから。君達だって鬼として生きたらそれくらい生きられるでしょ? だからね、今代ではずっと生き続けて。もうこれ以上、かぐやを泣かさないであげて……?」


 ミカドの切実な願いに、三人の弟達は複雑な面持ちを浮かべた。


 ミカドはかぐやをドラマの現場まで迎えに行き、三人が店で夕飯を終えて自宅へと戻ると、すっかり上機嫌の雅が風呂上がりの姿でソファに座っていた。


「やあ。空気読んでくれてありがとう」

「兄さん……」

 ツヤツヤの肌に、相当愛し合ったと悟る。


「……で、のりピーは?」

「みのりちゃんなら気ぜ……寝ちゃったよ?」

(気絶させたんかい……)と溌が内心で呟く。


「俺はまだ諦めてねえからな!」

「若いねー、倖。でもその若さは、同世代の子にぶつけたら? 彼女ならきっと応えてくれるよ?」

「お、おれは、みのり以外の女はっ……」

「百合亜ちゃんが妹になってくれたら、きっと楽しいだろうなぁ?」

「い、いもうとってなんだよっ! お、おれはまだ結婚なんて考えられねえしっ!」

「結婚までとは言ってないんだけどな?」

「そういうことだろうがっ!」

「あー、うるせーな。オメーがナニを言ったところで、童貞は非童貞には敵わねーんだから諦めろ」

「溌兄は俺の味方だろー!」

「時と場合によるな。あとはそうだな、献金か」

「けん菌……?」

桿菌かんきんみたく言うんじゃねーわ!」

「監禁!? 溌兄は俺を監禁してえのか!?」

「ゆりっぺの同人誌に毒され過ぎだ、バカヤローがっ! よくそんなんで高校卒業できるな! いーか、高卒認定されたんだから、今年一年猛勉強して、来年には大学入れよ! オレの弟でスベリやがったら、ぶっ殺すからなっ!」

「わ、わかってらぁ!」


 二人の弟達がぎゃあぎゃあ言い合う中、ソファに座った慶が隣に座る雅に目を向けた。


「……みのりは、新羅に私のことを話しに行ったのか?」


「恐らくはね。ミカドでもどうにも出来なかったと知って、なら自分がって思ったのかもしれないね。彼の要求に応じることで、君や『宝物』を守るつもりだったのかも。いや、そうだね、きっと」


「そうか……。みのりに悪いことをした。私が不甲斐ないせいで、みのりが新羅の言いなりになるなんて、私には耐えられない……」


「それは君だけじゃなく、僕も、弟達もそうだよ。ねえ慶、この際だ。君は『monkeyshine』のメンバーとして、平子君達と行動を共にしたらどうだい?」


「なっ……!? 何を言っているんだ、兄さん! それじゃあ、店の仕事はどうなる! 私がいなければ誰がディッシュを作るんだ?」


「それは僕とみのりちゃんでどうにかするよ。彼女も料理上手だし、君のレシピがあればどうにか作れるからね。僕だって伊達にイタリア時代、君と同じ店で修行してないよ? ドルチェが作れれば、ディッシュだって作れるって、よく師匠が言ってただろう? それで昨日もどうにかなったんだし、君が店にいないって分かれば、少なくとも『monkeyshine』のファンやマスコミが殺到することはなくなるでしょ?」


「だが兄さんっ……」


「聞いて、慶。ずっと考えてたんだけど、あのりょうが平子君とアイドルやってるって、今まで誰も気づかなかったのはどうして? いくら変装していたとは言え、あれだけ売れてるアイドルデュオの片割れが苓だって、君やあの英すら気づかなかったなんて有り得ないよ。平子君は、あの東雲家の生き残り。天才陰陽師の彼が志規家の次男を式神として使役させているんだとしたら、彼らは最初から君を巻き込むつもりでいたんじゃない?」


「あ……」


 苓の三人目という言葉が脳裏を過る。


「君も一度腹を括ったのなら、サルと緑鬼の中に飛び込んでおいでよ。そうすることで、何かが変わるかもしれないし」


 兄の言葉に平子の言葉が蘇る。


『――イヤだっつんなら、オレの式神になれ。これまでしなかったコトをすれば、少しはこの因縁の結末も変わってくんだろ?』


「……分かった。そうするよ。だがもし、もしも私がサルの式神になることになったら、兄さんはどうする?」


 慶の言葉に、溌と倖が「はあ!? 式神!?」と仰天した声で振り向いた。


「慶りんが溝ザルの式神なんて有り得ねーだろ!?」


「そうだ! そんなこと、慶兄のプライドが許さねえだろ!」

 

 弟達の言葉に慶が俯く。その横顔に、雅は人知れず吐息を漏らした。


「君が彼の式神になりたいのなら、それもまた仕方ないんじゃない? ただその時は、父さんと母さんに筋を通さないといけなくなるだろうけど」


「父上と母上に……」


「君も頬月の鬼だからね。生き方を変えたくば、生みの親に自分の言葉で説得しなきゃ。そうじゃなきゃ、また橋のたもとで意に反することをさせられちゃうよ? ――五条」


「兄さん、その名は……」


「分かってる。僕もいくつか通り名はあるけど、平安の世の名は捨て去りたいからね。……さて、僕はもう寝るよ。明日から二人分の仕事をしなくちゃいけないし、今日は色々頑張っちゃったしね」


 そう言って、雅は立ち上がった。猶も目を伏せる慶に、そっと笑う。


「慶、君が彼の式神になっても、君が僕の弟であることに変わりないよ。君も溌も倖も、それからミカドも、僕にとってはかけがえのない弟だ。何度この世に生まれ落ちても、何度バラバラで生きることになっても、僕達が兄弟であることに変わりない。あのね、僕は今代では、君達に『宝物』に囚われることなく、自分の好きなように生きて欲しいんだよ。アイドルになるのも、医者になるのも、それからえーと、倖は……まあ、今からゆっくり夢を見つければ良いか。兎に角、今を楽しく生きてよ。九度目の人生を、悔いなく生きよう」


 兄の微笑みに弟達は目を反らした。それに気づいていながらも、雅はリビングを後にした。


「……今のは兄さんの本音だろうか?」


「さーな。ミーボーの気持ちを計れたことなんてねーからな。けどオレはもう、医者になるつもりなんてねーよ」


「……悔いなく生きようって、悔いなく生きれたタメシがねえから、そう言ったのかな、雅兄。俺は、雅兄にこそ、悔いなく生きて欲しいのに……」


「兄さんは春姫と出逢う前までは、『血まみれ雅樂』として恐れられていた鬼だったからな。鬼に対しては規律を正し、人間に対しては非道を貫く。そんな鬼の本分を絵に描いたような性格だったからな。それでも、私は兄さんが優しい鬼だってどこかで信じていた。いや、そうであって欲しいと願っていたんだ。今の兄さんは、私が理想とした優しい兄さんだ。あの姿が本当の頬月雅だと、私は信じたい」


「そーだな。もう二度と、あんなミーボーは見たくねーよな。『膏血こうけつの兄上』なんて呼びたくもねーし、呼ばれたくもねーよな」


「俺、雅兄が血に塗れて笑う姿なんて見たコトねえけど、平安の頃はよく、『膏血の兄上』って呼んでた。その意味も知らねえでいたけど、俺がそう呼ぶ度に、雅兄がツライ顔してたの、知ってるんだ。だから雅兄には、誰よりも幸せになってもらいてえ。ああ、やっぱりそうなると、雅兄とみのりの間を切り裂くなんて俺には出来ねえな。まあ、しょうがねえか。俺もいつまでも引きずってねえで、夢や希望を見つけねえとな」


 心を決めた倖に、「えらそーに!」と溌が笑う。


「なんだよー! 人のコト笑ってねえで、溌兄もココ姉にもう一度告ったらどうなんだよ! そうこうしてる内にココ姉に新しい彼氏がデキても知らねえからな!」


「バカ言うんじゃねーよ、童貞が! どんだけ記憶を奪ったって、オレとココは相思相愛になる運命なんだよ! そんなコトよりも、オメーはゆりっぺに飽きられねーようにしろよ! あの子は将来、大物になるぞ。ぜってー手放すんじゃねーぞ!」


「目が¥マークになってんだよ、金の亡者めっ! それからゆりっぺってなんだよ! 前から言おうと思ってたけど、溌兄のあだ名のセンス悪ぃーんだよ!」


「んだと、コラ! オメーにセンス云々言われたくねーんだよ!」


「まあ、落ち着け溌。倖も溌のセンスについては何も言うな。私も兄さんもそう思っているが、千年間、口には出していないだろう?」


「おいコラ、本気で傷つくからヤメロ」


「ああ悪い。私も今日は疲れたから、もう寝るな。お前達も遅くならない内に早く寝ろよ」


「母ちゃんかよ」


「母上はもっと恐ろしいだろう?」


 そう笑って慶も自室に上がった。ベッドに寝ころぶと、携帯につけられたストラップを手に取った。それは自分を模った人形で、男前に笑っている。それをぎゅっと握り締めて、慶は天井を見つめた。


「……俺も変わらないと、何も変えられないよな」

 そう決意を込めて、明日からの人生を前向きにとらえた。

 









 





































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鬼の発生と消滅のメカニズム ノエルアリ @noeruari

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