思い出ラーメン <モフモフコメディ>甘い扉 Ⅱ
来冬 邦子
第一話 風涙の探しもの
本日の昼休みは探しものがある。
とはいえ月初めの月曜日とあって、朝から問合せや催促の連絡がひっきりなしだ。オフィスが通常のテンポで回り始めたのは十四時をまわる頃だった。
ようやく昼休憩に入れた
お腹がすいた。
「ありがとうございます」
風涙の
「It's my pleasure.(お役に立てて光栄です)」
風涙は軽く目を瞠る。青年は粋な
通り過ぎたあとには微かに
――演劇の人かしら。それとも茶道の家元。デザイナーかも。
バーゲンで買ったピーコートがふいに恥ずかしくなった。
老舗の印刷屋に就職して七年目になるが、風涙はスッピンに近い薄化粧だ。流行りのスタイルを追うよりも、自分はシックであればいい。余裕があれば本を買いたい。そんな志が揺らぐ日も
遠ざかるシルエットが細い坂道を登ってゆく。
あれは風涙がまだ一度も足を向けたことのない道だった。ぷうんと
――あっさりしていてコクがある。旨いラーメン屋は匂いで分かる。
ゴマ油と香草と鶏ガラが濃厚に溶け込んだラーメンの匂いは、青年の登っていった坂の上から誘いかけるように漂ってきていた。
――さとちゃんのラーメン屋だ!
風涙の探しものは、あっけなく見つかったかに思えた。
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