奴隷となった主人公が様々な「不条理」に遭いながらも、生き残るために足掻いていく物語です。
基本的にはWizardryな迷宮での話なのですが、「奴隷」や「冒険者」という立場に降りかかる理不尽な展開が、この物語の面白さに繋がります。
話が進むにつれて主人公も成長していきますが、基本的には俺TUEEEという展開にはなりません。主人公より強い者は、いくらでもいるのです。
『迷宮クソたわけ』という、センスの塊のようなタイトルとなっておりますが、本当にクソと思うのは「迷宮」でも、そこに巣食う「怪物」でもなく、それらを利用する「人間」であるということが嫌というほど思い知らされます。
インパクトに頼った作品は、一度読めば読み直す気が起きないこともザラですが、この作品は違います。
奇抜なタイトル、死と隣り合わせの理不尽が渦巻き暴力が支配する世界観、食わせもの揃いの登場人物、血と汗と汚物に塗れた道行きと、強烈なインパクトのある内容でありながら、文章力、構成力、ユーモアセンスが伴った確かな芯があり、忘れた頃に読み返せば、その度に楽しませてくれる力があります。
商業書籍があれば当然、お金を払って手に入れ愛蔵すべき良作であることは確かなのですが、何をトチ狂ったかと思うような超ライトなコンセプトでの出版と相なってしまい、しばらく経っても続巻がないようで絶望的としか思えず、購入を強くお薦めできないのが非常に残念です。
角川さんには、是非この良作をまともな形でリブートして欲しい。
読み終えた後に本棚の並びを眺めながら次の発売を心待ちにする、そんな日々を夢見ています。
角川さんでリブートできないなら、もうはっきり言ってキンドルでもブックウォーカーでも個人出版してくれれば買いたい。
それぐらい評価する作品です。
ファンタジー系の学園ラブコメであれ俺tueeeであれ、迷宮や身分制度といった要素は色々な作品で扱われています。
力を持たぬ弱い立場から見た時のそれらは、当たり前のように無慈悲で恐ろしいものですが、その辺りのダークな空気感というのは、展開だけでなくキャラクターの倫理観とか、空想上だけど血の通った道理や設定がないと決して生み出せないものです。この作品は、その全てが非常に高いレベルにあります。
いつ誰が死んでもおかしくありません。種族や身分に対する悪感情も安易なものではなく、歴史から来た文脈を感じます。主人公は強者から一目置かれる事がありますが、そこにあまり説得力を感じないので、逆にリアルです。
常に描かれる理不尽や、モヤモヤした閉塞感が解消される事はありません。主人公は迷宮と戦いの中で成長していきますが、あくまで地続きの毎日なので、刺激的な出来事が起きても、主人公の人生が物語のように好転することはありません。迷宮を取り巻く様々な人間関係を描いた、群像劇のようなファンタジー小説です。
間違いなく高いレベルにあるし、非常に素敵な作品ですが、ただ一つ、オタクチックなハーレム要素が、作品の筋をぶらしている気がします。逆にそれがいいのかもしれませんが……。