【解説付き】さて、いますぐ解読できるか、一読者よ(新匿名短編コンテスト参加作)

 最愛の一番弟子へ


 かの日以来、 三年と五日か。賢き一番弟子よ。

 さかしまな一味が奸計を依頼し、 査証係の一部が官職を逸した 詐欺行為を勢い任せで敢行したが、いまや 幸いなるかな。いつぞやの怪現象は一度も 再発なく、厭わしい感覚にいつまでも さいなまれず、いい具合に夏時かじを生きている。

 昨今は異様な影にいらだち、 殺伐と湮滅いんめつする回数もいい加減、 些少になり、異界も変わっていった。

 再三、一筆くらい書こうと言っては 些事にいつもかかずらわって、いつの間にか 去りゆく日に嫌気を感じていたところだ。

 先回りして入り用を片付けてしまい、いけないね。性というものかな。掻き入れどきで。因果関係を 細部までいつも解明したいと……意気込みすぎかい? 五月雨式の委託仕事で簡単にはいかないのだけれど。茶飯事だから要らぬ心配は勘弁してくれよ。いまも 催促されて急いで仮まとめの意見書を 再読していたのさ。移住を考えようか……忙しすぎて 障りがあるが、意地だ。格付け一級を 授けられているからね。数々の異名も 最初から意味あって、軽々しく一蹴すると 最後に痛い目を……階級を言い渡されたら、 差し当たり維持するのが賢い一策なんだ。


 さて、一番弟子よ。稼業にいそしみ 早急に依頼を解決する意志ありと、 先ごろの委嘱で回答していたが、 最西端の異国に関してはいかがか。最近は異界への神隠しも異常だとか。

 サバトの一夜に神が異界の 桟橋に憩うと、覚醒した生き霊も 桟橋に急ぎゆくとか。海神にいみなを 差し出して異界へ帰るなら、印字された 査証と石を必ず衣服に 差しはさむよう。いいかい、かつては異界へ 査証なしで行き、帰れずに逝った 三流魔道士がいたそうだ。彼らの一番かつ 最悪と言える過失は、意味を 差し違えて、いくつもの可能性も逸したこと。 察知できずにいたずらに掻き回したのがいけなかった。

 差し当たり居場所を確保してから行きなさい。

 指図する意味は皆目なく、いつでも 匙加減で依頼ごとを完結していいのだがね。 さりとて、いくらか過保護に言いたいものなのだ。 災難はいずれも回避して生き延びなさい。

『桜色の一角獣には格別のいつくしみを』

 散々に言い古されたとはいえ、過去の偉人が 最高の偉業を完遂して、畏敬こもった 賛辞をいくたびもかけられたいらえで、 去る前に言ったというかの一文だ。  


 さあ、意味が解明できるか、一番弟子よ。


 再度、一緒に歓談するいとまを 割けるまで、いつでも書き送っていいからね。


 最愛の一番弟子へ、かくり世のいち魔法使いより。



 *****ここから答え合わせと裏話*******


 解説)

 こちらの板野かもさまの企画に参加しました。「#新匿名短編コンテスト・再会編」

 https://kakuyomu.jp/works/16816927862378848244

 突発的に思い付いたものです。


 文ではなく、句読点でもなく、「言葉」の冒頭を繋げてください(言葉がどこで切れるかの解釈は複数あると思いますが)。


 少しのヒントでもあり、場合によっては撹乱でもあり、所々、言葉の間に間隔を一字開けています。

 解読『桜色の一角獣には格別のいつくしみを』→「再会」、つまり「無事で再会したい」という師匠の思いです。


 ところが! 笑ってください。板野さんに提出、解いてみてくださいと言った時にはここが「『桜色の一角獣には最高のいつくしみを』だった(はず)……当然ながら板野さんは疑問を呈されまして、直したというわけです。


 あはは!


 実はこのお話、思い付いたきっかけは、ポンデ林 順三郎さまのとっても可愛いお話、【No. 021】さいしょのおつかい、さいかわいちかさんさんさいのかい

 https://kakuyomu.jp/works/16816927862378848244/episodes/16816927862670049813

 でした! ありがとうございました。読んでみてくださいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蜜柑桜の短編集 蜜柑桜 @Mican-Sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ