「私の知らない物語がここにあるって聞いたんだけど、それって、ホント?」

名前:ルーシー・カトレット
通称:ルーシー
誕生日:7月16日
座右の銘:「なせばなるっ!」
紹介文:

「あの子は人魚さ。海からやってきたんだ」

老婦人は懐かしそうに、青い海に向かって、同じ色の瞳を細める。レナ・カトレット。

その日、レナは夜の海岸を一人歩いていた。
いつもは飼い猫のルーシーも一緒だったが、今朝、天寿を全うしたばかり。

一人の散歩は久し振りのことだった。
夫が先立ってからは、ルーシーがずっと側にいてくれたから。

寂しくない……といえば、嘘になる。
ただ、どうせ自分も長くはないだろうという、諦めが勝っていた。
これ以上、私の人生に何があるというのだろうか?

──だが、「何」はあった。それも、飛びっきりのが。

月明かりに照らされた海から、彼女が水飛沫をまとって飛び出てきたのである。
……生まれたままの姿で、「待ってましたっ!」と言わんばかりに。

「ここはどこ? 私は誰? ……なんて、本当に言われる日が来るなんてね」

彼女に記憶はなかったが、知識はあった。
レナとの生活にもすぐ溶け込み、ハイスクールにも通って、友達もたくさんできた。

──それでも、彼女は。

「知りたかったんだろうね。いや、失った記憶じゃない。新しい物語をさ」

レナの家、学校の図書室、地元の図書館……そこに、彼女の求める物語はなかった。
その全てを、彼女は知っていたから。

両手の人差し指と親指で窓を造り、彼女はよく水平線を眺めていた。
その先に、自分が知らない物語がある……そう、信じているかのように。

「旅に出ると聞いた時も驚かなかったよ。心配じゃないと言えば、嘘になるけどね」

レナは少し寂しそうな笑みを浮かべ、安楽椅子から立ち上がった。

「……ところで、あんたは何ていう鳥だい? それ、着ぐるみだろ?」

危険を察したその鳥……のような生き物は、天高く舞い上がった。
……ペンにしたら具合のよさそうな風切り羽根を一枚、その場に残して。

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