とある労働者の真実――彼の人生にフクシマがどのように関わったのか

拝読する前は、未曾有の災害に見舞われたフクシマという地を中心に、そこで働く除染作業員の生活をドキュメンタリータッチで描いたような作品かと思っていた。
しかし読み進めてみると、そういう要素ももちろんあるのだが、むしろ一人の労働者の生活を切り口にして、彼の人生にフクシマがどのように関わっていったのか……というのがこの作品のエッセンスであることが解かる。

序盤は、フクシマで働く事になる前の、関西のコークス炉での出来事が数話に渡って描かれる。
自ら“炉上生活者”と揶揄しながら働く、苛酷な労働条件。そこで同僚から齎される、フクシマの除染作業員という働き口の話。環境面や給与面など、主人公には魅力的に映るのだが――
その後、次々と起こる想定外の事態に主人公は右往左往する事になる。フクシマの実情についてはもちろんだが、個人的には、この一人の労働者の自叙伝的な部分が非常に興味深かった。

さらに、フクシマの南相馬で主人公を待つ、被災地の姿とは……? 一体そこで何が行われているのか?
作業員の雇用に関する問題はよくニュースでも取り上げられていた記憶があるが、この作品を読んで、ああそういうことなのか、と改めて腑に落ちた部分も多くある。

一人の除染作業員の目を通して語られるフクシマの姿は、被災地全体の側面に過ぎないかもしれない。しかし、未だ完全復興には程遠い現地の状況、放射能以上に現地の人を苦しめる風評被害……。
紛れなくそれは、知られざる真実の側面であることも確かだ。

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