第31話 NY株急落 - 瑞樹博士の経済学（オレンジ11）

前のエピソード――第30話買い物へ

　朝起きて、まずすること。窓際のテーブルで淹れたてのコーヒーを飲み、飾ってある花や植物を眺める。今は小さなカボチャを三つ、並べている。緑と白と、オレンジだったはずが――オレンジのカボチャはずいぶん白くなってきた。時間がたつとともに、色が変わるのだろうか。

　そして私は、ヨムカクにアクセスしてオレンジさんその他の活躍ぶりを覗き、そのあとで日本のニュースサイトに飛ぶ。ニューヨークに住んでいたって、日本人。祖国のニュースをチェックする習慣は、渡米して数年たつ今でもなくならない。

「ねえ、『NY急落、世界同時株安の様相（※１）』だって。どういうこと？」

　私は、ソファで新聞を読んでいる夫の瑞樹に話しかけた。ニュースの見出しがやけに不安をあおる感じだったからだ。ここは、経済学者の意見を聞かねばなるまい。しかし瑞樹の返事は、ごくあっさりしたものだった。

「よくわからない」

「えー？　少しくらい、解説してくれないの？　『トランプ大統領が、FRBを批判した（※２）』と書いてある記事もあるよ。FRBって何？　一体、何をしたの？」

「FRBっていうのは、『連邦準備制度理事会（※３）』のこと。『連邦準備制度』というのは、米国の中央銀行制度のことで、連邦準備制度理事会は文字通り、その理事会。米国の中央銀行制度の統括機関だ」

「ふうん。それでFRBは、何をしたの？」

「金利を引き上げた（※４）。トランプ大統領は金利引き上げ政策を嫌うから、それで批判したんだろう。金利を引き上げると景気がどうなるか、美緒はわかる？」

「景気は悪くなる」

「それはちょっと、ネガティブな言い方だよね。景気を『冷やす』と言っておこう。もし経済の状況が過熱気味でインフレの恐れが強くなっているのであれば、金利を上げた方が、経済活動を適切な水準に戻せるんだ。これは『悪い』とは言わないだろ？　わかる？」

「うん、わかる。じゃあ、何でトランプ大統領は金利引き上げを嫌がるの？」

「さあ。昔の名残じゃないか？　彼は大きな借金をしながら、不動産ビジネスを動かしてただろ？　その場合、金利が上がると借金の返済額が上昇するから、それが嫌だなって、いまだに思っているのかも知れない」

「なるほど。話は戻って、世界同時株安の原因について、米国と中国の貿易摩擦の激化を上げている記事もあるけれど（※５）。瑞樹、貿易は詳しいでしょ。どう思うの？」

「だから、よくわらかないって。まず第一に、米中の貿易摩擦が株安の直接の原因か俺にはわからない。第二に、もし貿易摩擦が原因だとして、それがなぜ今日、急落という形で表に出てきたのかも、わからないんだ。俺に言えるのは、米中貿易摩擦も金利引き上げも、景気を冷やす要因であることは間違いはない、ということだけ。繰り返しになるけれど、これらが今回の株安に直接の因果関係があるかは、俺には何とも言えない」

「そうなの」

「そうだよ。そろそろ朝食にしよう。それと美緒、窓辺のカボチャだけど。それ、カビ生えてる」

「えぇっ！？」

　なんと、白く色が変化したと思っていたオレンジのカボチャは、白カビに覆われていたのだった。

　ちなみに今日の朝食は、パンプキンベーグルにパンプキン入りクリームチーズの組み合わせ。ハロウィンシーズン真っ最中だ。

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　※１

　ＮＹ急落、日本やアジアに波及　世界同時株安の様相（朝日新聞デジタル、10/11(木) 12:58配信）

　https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181011-00000042-asahi-brf

　※２

　米・東京株式市場急落、トランプ氏「FRBは狂ってしまった」（AFP＝時事、10/11(木) 14:10配信）

　https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181011-00000024-jij_afp-int

　※３

　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%A3%E9%82%A6%E6%BA%96%E5%82%99%E5%88%B6%E5%BA%A6#%E9%80%A3%E9%82%A6%E6%BA%96%E5%82%99%E5%88%B6%E5%BA%A6%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A

　※４

　トランプ米大統領、連日のＦＲＢ批判　利上げ「ばかげている」（ロイター、2018年10月11日 / 11:21）

　https://jp.reuters.com/article/usa-trump-fed-idJPKCN1ML28A

　※５

　株急落、米金利上昇が誘発　資金逃避加速、貿易摩擦も影響（SankeiBiz、2018.10.12 06:15）

　https://www.sankeibiz.jp/macro/news/181012/eca1810120500003-n1.htm