ムノウの男

____私はムノウだ

4PV 星2 応援4

副題 馬鹿は死んでも治らないが、阿呆は死んだら治るのか


独白独白ぅ、な文章です。その場のノリと気分で書きました。



うーん。明るい調子で暗い歌詞の曲が好きなんですが、んな物ばかり聞いてるから、こんな変な物ができるんでしょうねぇ。


#####


 暖かな手が私の頬に触れる。見えやしないが、分かる。この、細く儚く滑らかな手は、同居人の少女だ。

「さようなら、師匠」

「行かないでくれ。待って、待って!」

 手は何も掴まず空振りし、私は地面に叩きつけられる。

 杖一本無いだけでこれとは。あまりの悔しさに、枯れた筈の涙が流れた。____こんな風に、流したくは無かった。

 少女の足音が遠ざかって行く。カツンコツン、カツンコツンと。

 ああ、私は無能だ。また、助けれなかった。体の重さが酷くなっていく。


 少女は、ある晴れた日に私の家の前で倒れていた。数度杖で突いても反応は無く、とても久しぶりの人間であったから、最初それが何か分からなかった。素手で触れてやっと小さな呻き声が上がったので、慌てて少女を抱き上げて家に駆け込んだ。あんなに急いだのも久しぶりだった。

 水と手ぬぐいを持っていくと、少女は起きていたらしい。か細い声で私に何かを言った。それがなんであったかは、おそらく絶対分からない。しかし、彼女が私に助けを求めているのだけは伝わった。

 少女に水を飲ませ、名前を聞いて、その境遇に同情して____そのまま住み着いた彼女と、約二年。楽しい時を過ごさせて貰った。良い時間だった。罪人である私には、勿体無い程に。しかし、何度少女に此処を離れ、安全な地に行くよう説いても、彼女は頑なに頷かなかった。


 何故だろうか。何故だろうか。そう思考を巡らせた所で、無能な私には何も分からなかった。

 人間が生きるべき一生以上を生きてしまったから、きっと脳が腐っているのだろう。分かる筈の事も分からない。私は無能であり、無脳なのだ。

 そう考えて諦めようとした時、懐かしい声を聞いた。

「そりゃあきっと、お前の事を好いているからだろう」

 聞く筈の無い、低く澄んだ声。周りを見渡すが誰の気配も無い。いや、ある筈が無いのだ。いるのは、彼がいるのは、天地がひっくり返っても有り得ないのだ。

 しかし、彼の声は依然聴こえてくる。

「いや、きっと、じゃないな。絶対に、だ」

「あ……お、おい、何処だ!? いるのなら、いるのなら私の手を握ってくれ!」

「お前、体は大事だって、何度も言っただろう?」

 私の言葉を無視して、彼は一方的に語り出す。

「こんなに目ぇ駄目にしてよ……やっぱり、阿呆だな、お前。あー見事に真っ白じゃないか。それに、手足に肉が無い。餓鬼みたいで気持ち悪い。お前は食が細いから、その分栄養に気をつけて飯を食えって、これも何度も言っただろう? 魚が嫌いだからってなぁ、食えよ? 良い歳して好き嫌いなんて、みっともないぞ」

 そのまま続きそうな話を「おい」と言って遮ると、彼は快活な声で笑い出した。

「女々しい。女々しいぞ、お前。真白の虎も堕ちたなぁ」

 真白の虎。その言葉を聞いたのは何時振りだろうか。

 彼は嘲るように私の顔を掴んだ。頭をグイと持ち上げられると、彼特有の不思議な香りが鼻腔を突いた。

「お前なら、その手で取れるだろう? そうやってお前は全てを奪って、そして、全てを棄てただろう?」

「っ、貴様! 誰だ!?」

「誰だっていいだろう、そうだろう。俺は俺だ」

 その「俺」というのは、彼を指すのでは無く私を指すのでは無いか。そう思った瞬間、手を離されて、私はまたしても無様に地面に這い蹲る。

「お前ならやれるだろうさ……あの世天国から見てるぜ、相棒」


 視界がスッと明るくなる。それは気持ちの問題で、実際には私の視界は黒く覆われたままであった。

 心が一つ変わっただけで、体は驚くくらい軽くなっている。手探りで探すと、杖は案外近くにあったようだ。自分の滑稽さに笑いが込み上げてくる。

「あははは……はは、ははははは!!」

 一通り笑うと、さらにすっきりとしてきた。

 私は立ち上がると、フゥと息を吸った。

「何が天国だ! あいつが行ったのは地獄だ! そして、私が行くべきも地獄だ! 何故なら、我らは罪人であり、我らは常に共にあるからだ!」

 若い頃を思い出す。云百年も昔、まだ私が人間として生きている頃に、二人で「死後は地獄。しかし、達ならば畏れるは無い」と言い、大笑いをした事がある。それは確か、彼が死ぬ前日だった筈だ。


 あれは、私の悔恨が形になった物だ。ならば畏れる必要も、嫌う必要も無い。ただ真正面から向き合って、全て聞いてやれば良かったんだ。

 ならば話は至極簡単。物語は今、起承転結の転の始まりだ。一応は元武士、敵を斬らずして終わる物か。後、単純に自分の弱さに腹が立ったので八つ当たりしたい。

 私は一歩先の地面を杖で叩いた。


 __この話は此処で終わるが、結末は勿論大団円だ。そうで無いと、面白く無いからね。

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