対談「ある青年の話」
____狂っているのか、狂っていないのか
副題 対談
3PV 星1
この物語はフィクションです。
この世に存在する有象無象のうち、私、宇曽井 誠が書いた物語の世界にしか関係がありません。
いえ、それにすら関係ないかもしれません。今、私の中にあるだけで、それは陽の目を見る事はないかもしれません。
もしそうなれば。
この対談は、私の世界に関係あると言えるのでしょうか。
特に答えを求めているわけではありませんので、あしからず。
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正面に座った青年は、嬉しそうに笑って言った。
「俺は、弟達が大好きなんです。皆さんは狂ってる、と言いますが、俺は正常です」
「しかし……なら、なぜ、君は両親を殺したのですか?」
なぜか敬語で聞いてしまう。理由は分からないが、どうせ彼を恐れているからだろう。年下相手に情け無い。
彼は不思議そうに首を傾げる。
「なんでって……弟達が大好きだからですよ。父さんも母さんも、弟達を見下していました。それが、俺には許せませんでした。父さんが死の淵にたったから、チャンスだ、と思いました」
……訳が分からない。
そりゃあ、彼の家庭はおかしかった。まるで、ヨーロッパの王族のように、一族の、限られた連中だけの発展しか考えていなかった。
近親相姦を繰り返した挙句、奇妙な人間だらけになった欧州貴族。彼らと違うのは、近親相姦をしていない事くらいだろうか。
そんな事があるから、彼の頭のネジが数本無くても不思議ではない。世の中には、我々では想像もつかないような世界が無数にあるのだから。
「父さんはいつも高圧的だったのに、俺がナイフを持ったら命乞いを始めました。うるさかったです。だから殺しました」
「そ、それだけ……ですか?」
「はい。あ、母さんはそれを目撃したので殺しました」
「……ほ、他に、理由も、何もないん、です、か?」
声が震えている。
青年はニッコリ笑って「はい」と答えた。
頬を冷や汗が伝う。拭っても、拭っても、汗があるように感じる。
おそろしかった。今すぐに、この場から逃げ出したかった。
しかし、これは仕事だ。仕事だから、やらねばならない。
「もう、お話は終わりですか?」
青年が顔を覗き込んでいた。思わず椅子から転げ落ち、尻もちをついたまま下がってしまう。
「終わりですか。ありがとうございました、先生」
青年は深いお辞儀をして、部屋から出て行った。
後に残ったのは、無駄だらけの静寂と、話を聞きながらとっていたメモだけだった。
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